インダクタンスというコイルの性質をご存知でしょうか。インダクタンスとはコイルにおいて電流の変化が誘導起電力となって現れる性質です。しばしば、誘導係数、誘導子とも呼ばれます。インダクタンスの性質は第三種電気主任技術者試験にも出題されることがある重要な理論です。
この記事では、そんなインダクタンスについて、自己インダクタンスと相互インダクタンスそれぞれを紹介しながら数式・公式・計算を用いて解説していきます。
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インダクタンスとは?数式や公式で読み解く、電流との関係、単位
インダクタンスの性質とは?単位はどう書く?
まず、インダクタンスとは何でしょうか?
インダクタンスとは、電流が変化するのを邪魔(抵抗)する性質のことを言います。
電流が急に変わろうとすると、それに逆らう力(電圧)が発生します。
この性質を持つ部品が「インダクタ」(コイル)です。
簡単なイメージとして、コイルは「電流を一定に保ちたい!」という性質を持っていると考えましょう。
次に、インダクタンスの働きについて説明します。
インダクタンスの働きを理解するためには、以下の2つの法則を理解していることが重要です。
ひとつ目の法則は、ファラデーの法則です。
ファラデーの法則は「磁場が変化すると電圧(誘導起電力)が発生する」という法則です。
ここでは簡単に、「電流が速く変化するほど、コイルは強い電圧を発生させて電流の変化を抑えようとする」と覚えてください。
ふたつ目の法則は、レンツの法則です。
レンツの法則は「誘導起電力は、原因となる電流の変化を打ち消す向きに発生する」という法則です。
電流が大きくなろうとするとそれを小さくする方向に電圧が発生し、逆に電流が小さくなろうとすると増やす方向に電圧が発生します。
逆に言うと、一度電流が安定すると誘導起電力は発生しなくなります。
上記2つの法則を踏まえると、インダクタンスの働きの基本的なイメージは以下のようになります。
■コイルに電流を流すと磁場が発生する
■電流が変化すると、この磁場も変化する
■磁場の変化によって誘導起電力(電圧)が発生し、電流の変化を打ち消そうとする
上述した点について、もう少し詳しく説明していきます。
導体に電流を流した場合には、電圧降下が生じます。しかし、電流の大きさが時間的に変化する場合には、変化の割合に応じて抵抗とは別の電圧降下が生じます。導体がコイル状になっている場合には、この電圧降下はかなり大きくなり、無視できなくなります。この現象のことを電磁誘導現象と呼びます。
先述したとおり、誘導起電力は電流の変化が大きいほど大きくなり、また、変化させる時間が短いほど大きくなります。
言い換えると、誘導起電力は電流の変化量に比例し、時間に反比例すると言えます。
数式に寄せて言い表すと、電流や時間の変化量にコイル特有の定数をかけたものが、誘導起電力なのです。
式で表すと以下のようになります。
図1に示すコイルに電流を流した時に生じる磁束をとすると、ファラデーの電磁誘導法則によって回巻きのコイルの両側に生じる電圧は、
[右辺を全磁束]
となり、コイルが空心の場合には、とは比例するので、以下のように表すことができます。
この比例定数のことを自己インダクタンスと呼びます。自己インダクタンスの単位はヘンリーで、[H]を用います。空心の場合には、との関係は、以下のようになります。
電流が変化することによって、コイルの両端に電圧降下が生じることになり、言い換えると以下のように表すことができるのです。
となります。もしくは、
となります。ここで、およびは、それぞれにおいて、インダクタンスに流れた電流及びインダクタンスに生じていた全磁束です。上の二つの式からわかるように、初期電流をゼロとする代わりに、インダクタンスに並列に電流源を接続してもよいのです。
次に、→0とした場合について考慮すると、がで無限大のジャンプをしない限り、
であることがわかります。したがって、インダクタンスに流れる電流、もしくは磁束(全磁束)はが無限大のジャンプをしない限り任意の瞬間において連続的であるということができます。
もう少しかみ砕いて説明すると、コイルに流れる電流や磁束が急激に増減するためには電圧が瞬間的に無限大になる必要があります。
しかし、現実の回路では無限大の電圧は発生させることができないため、インダクタンスに流れる電流や磁束は常に連続的に変化するといえるのです。
もっとわかりやすく、コイルを「水の流れが通るパイプ」と考えてみてください。
水の流れを一瞬で無限大にさせるためには、瞬間的に無限大の圧力が必要になります。
しかし、そんな圧力は現実に生み出せません。
よって、パイプ内の水流(電流)は滑らかに変化せざるを得ないのです。
インダクタンスは巻き数が多く輪が大きいほど大きな値になり、鉄心を挿入してコイルの性質を強めたりすることができ、コイルの電流は他のコイルにも影響を与えているのです。これがインダクタンスの性質です。
[インダクタンス]自己インダクタンスの公式・計算
先ほどのインダクタンスの性質で少し触れた自己インダクタンスにもう少し踏み込んで解説していきます。
自己インダクタンスとは?数式・公式・計算
コイルに流れる電流が変化すると、電流の変化が磁束の変化となり、コイルに起電力を誘起します。この作用のことを自己誘導作用といいます。この起電力を自己誘導起電力と呼びます。自己誘導作用による自己誘導起電力は、電流の変化の割合(電流の変化率)に比例します。
先ほども触れたようにここでの比例定数はで、はコイルの性質を表している定数であり、これを自己インダクタンス(単位はヘンリー[H])と呼ぶのでした。自己インダクタンスは、電流の変化によってコイル自身に生じる起電力の大きさの量というわけです。
起電力の式に負の符号がついていますが、これは、電流の変化を妨げる方向に起電力が発生することを指しています。このことを逆起電力といいます。また、巻線を貫く磁束が変化すると、磁束の変化を打ち消す方向に誘導起電力が発生します。巻き数のコイルでは、誘導起電力は以下のようにあらわすことができます。
ここで、式(1)と(2)は等しいので、
よって、
ここで、コイルの磁束と電流は比例するので、次の式が成立します。
コイルの巻き数と磁束の積=磁束数は、となり、このことを磁束鎖交数といいます。つまり、インダクタンスは、コイルに1Aの電流を流した時の磁束鎖交数となるのです。式(3)より、
であるのです。コイルの磁束鎖交数は電流に比例し、比例定数が自己インダクタンスとなるのです。
環状コイル(ソレノイド)の自己インダクタンス
上の図のような環状コイルがあるとします。上図の環状コイルは、回巻の環状コイルで、環状コイルに電流を流したときに、鉄心内の磁束を、磁束密度を、鉄心の断面積をとして、環状コイルの自己インダクタンスを求めます。
となります。自己インダクタンスは、コイルの巻き数の二乗に比例することがわかります。一方、磁気抵抗には反比例していることがわかります。
[インダクタンス]相互インダクタンスとは?計算・公式
相互インダクタンスの性質・計算・公式
独立したコイルに流れる電流と、その両端の電圧との関係は以下のように示されるのでした。
ここで、もう一つのコイルがに近接しておかれてあり、互いに影響を及ぼしあう場合、に流れる電流が電磁誘導によってに影響を与えることになります。このとき、は、
という形になります。また、の両端の電圧もの影響を受け、
となります。このときの、とは値が等しくなるので、となり、このことを相互インダクタンスといいます。相互インダクタンスは、コイルの巻き方や電流の向きによって正あるいは負の値をとります。この相互インダクタンスの符号はコイルの巻き方、電流の向きによって、、となるということです。
相互インダクタンスの性質を整理すると、二つのコイルがあるとき、一方のコイルに流れる電流が変化すると、もう一方のコイルに起電力が誘導されます。この作用のことを相互誘導作用といい、二つのコイルの間に相互誘導作用があるとき、両コイルは電磁結合しているということができます。つまり、相互誘導作用による誘導起電力は、他方のコイルの電流変化の割合に比例しているのです。相互インダクタンスは、比例定数で表せれます。相互インダクタンスの単位は自己インダクタンスと同様にヘンリー[H]です。
相互インダクタンスは、一つのコイルに1Aを流したときのの磁束鎖交数、もう一つのコイルに1Aを流したときのの磁束鎖交流のそれぞれは次のように表すことができます。
相互インダクタンスを含む回路での相互インダクタンスは等価回路になる?
例として、☝のような回路があるとすると、回路方程式は、以下のようになります。
ここで、が正弦波であり、定常状態を想定し、フェーザ法によってこれを表すと、
これより、を求めると、
となります。ここで、回路方程式についてを考慮すると、以下のような式になります。
といった形になります。この回路方程式は、図5の示す回路方程式になっていることがわかります。すなわち、図4と図5の回路は全く同じ回路方程式が成り立っていることがわかります。したがって、図4の回路の代わりに図5の回路でもよいということになります。相互インダクタンスの回路ではこのような性質があり、両回路の関係は等価回路となります。
インダクタンスを求める計算の例題
自己インダクタンスの値を求める例題
巻数のコイルのを流れる電流が0.1秒間に0.6Aの割合で変化しているとき、コイルを貫く磁束が0.4秒間に1.2mWbの割合で変化した。子のコイルの自己インダクタンスの値として正しいのはどれか?*ただし、コイルの漏れ磁束は無視できるものとする。 (1)0.5 (2)2.5 (3)5 (4)10 (5)20 |
解答
①起電力を求める公式より、電流の変化率を求める式=磁束の変化率から求める式なので、
②、に変化する電流はとなります。ここで、に変化する磁束はとなります。ゆえに(1)式にこれらの値を代入すると、以下のように求めることができます。
となるので、答えは(3)の5mHとなります。
まとめ
以上のようにインダクタンスの性質を計算式、数式、公式などを用いて紹介しました。
インダクタンスには自己インダクタンスと相互インダクタンスがあり、それぞれ何がどのように違うのかについて押さえておく必要があるでしょう。