電気主任技術者は電気主任技術者制度の下で電気事業法の定めにより、自家用電気工作物の工事・維持、運用に関する監督業務を行います。自家用電気工作物の設置者は電気主任技術者を選任しなければなりません。電気主任技術制度の運用方法については「主任技術者制度の解釈及び運用(内規)」に定めがあります。この記事では、電気主任技術者の選任の中でも「兼任」についての条件・要件などについてを紹介します。
電気主任技術者を兼任するとは?どういう意味なの?
電気主任技術者の選任にはいくつか種類がある「専任」「兼任」「兼務」
電気主任技術者の職務の形態にはいくつか種類があり、「専任」「兼任」「兼務」の3つです。それぞれに違いがあり、それぞれに内規による規定がなされています。これらの違いをまとめると以下のようになります。
選任 | 内容 |
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専任 | 選任された事業場に常時勤務し、主任技術者としての職務を行う形態 |
兼任 | 既に選任されている事業場に加え、別の事業場の主任技術者の職務を行う形態 |
兼務 | 既に選任されている事業場は無いが、常時勤務する事業場とは別の事業場の主任技術者として選任される形態 |
兼任は電気主任技術者の選任の例外規定
原則として電気事業法で定める事業用電気工作物の設置者は電気主任技術者の免状を保有する電気主任技術者を規模に合わせて選任しないといけません。しかし、事業場によっては電気主任技術者の採用ができないなどの、電気主任技術者を選任することが難しい場合があるでしょう。そうした際に原則に対する例外として「電気主任技術者の兼任」を含め、いくつかの例外規定が存在します。それは以下のような例外規定です。
電気主任技術者選任に関する例外規定 | 概要 |
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電気主任技術者の兼任 | 電気主任技術者は、受電単位で1事業場1主任技術者を原則としているが、やむを得ない事由 により事業場の専従者の中から主任技術者を選任できないときは、所轄の通産局長の承認を得るこ とにより、他の事業場の主任技術者を当該事業場の主任技術者として兼任させることができる。 |
電気主任技術者の不選任 | 下記の事業場にあっては、(財)関東電気保安協会又はその他の公益法人に所属する電気管理事務所との間において電気保安に関する業務契約を締結し、通産局長の承認を得れば主任技術者を選任する必要はない。 ・最大電力1000kw未満の発電所 ・出力500kw未満の発電所 ・低圧配電線路の管理事業所 |
電気主任技術者免状の交付を受けていない者の選任 | 下記の事業場にあっては、免状の交付を受けていない者であっても、通産局長又は通産大臣の許可 を受けることにより、その者を主任技術者として選任することができる。この主任技術者を“許可主任技術者” ・最大電力500kw未満の需要設備 ・出力500kw未満の発電所 ・1万V未満の変電所 ・1万V未満の送配電線路の管理事業所 |
電気主任技術者は受電単位で1事業場当たり1主任技術者が原則なのですが、やむを得ない場合においては他の事業場の電気主任技術者を兼任させることができるのです。電気主任技術者の選任に関する柔軟な対応を可能にするのが「兼任」というわけです。
電気主任技術者の兼任の条件とは?2000kwの場合とは?
電気主任技術者を兼任するためのいくつかの条件。
事業用電気工作物の電気主任技術者の選任ができない場合、ほかの事業場から電気主任技術者を選任させることが「兼任」でした。この兼任が認められるためにはいくつかの条件があります。
電気主任技術者を兼任するための条件をまとめると以下の表のようになります。
条件 | |
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1 | 兼任できる事業場数は常勤場所を含めて6カ所以内。 |
2 | 電圧7,000ボルト以下で連系等をするものであること。 |
3 | 同一又は同系列の会社若しくは同一敷地内にある事業場であって、両設置者間で別途、主任技術者制度の解釈及び運用(内規)の要件を満たす契約を締結していること。 |
4 | 常勤場所又は自宅から2時間以内に到達できること。 |
5 | 電気主任技術者に連絡する責任者が選任されていること。 |
電気主任技術者を兼任できる場所は常時勤務の場所を含めて6か所になっています。
また、電気主任技術者を兼任しようとする場合の電気主任技術者は有資格者、つまり免状交付を受けたもので、派遣社員ではなく正社員である必要性があります。
電気主任技術者を兼任する場合で2000kwの場合
ただ、この兼任にあたっては、①兼任させようとする事業場、設備の最大電力が2000kw以上となるような場合、②兼任させようとする事業場、もしくは設備が6設備以上となるような場合に関しては保安管理上の業務の支障になることが考えられるので「特に慎重を期することとする」とされています。「特に慎重を期することとする」という文言は内規の中で頻繁に使用されますが、これは慎重を期さない場合は保安監督部に承認されなくなるなどの可能性があるのです。
例えば、電気保安法人の事業場担当者が「副業」をしてしまう場合は「兼務」の規定に関する「特に慎重を期することとする」という問後にに背反する恐れがあります。
内規6.②の申請事業場の条件
また、「内規6.②」にある申請事業場は次のいずれかに該当することが求められています。
イ 兼任させようとする者が常時勤務する事業場の事業用電気工作物を設置する者の事業場
ロ 兼任させようとする者が常時勤務する事業場の事業用電気工作物を設置する者の親会社又は子会社である者の事業場
ハ 兼任させようとする者が常時勤務する事業場の事業用電気工作物を設置する者と同一の親会社の子会社である者の事業場
ニ 兼任させようとする者が常時勤務する事業場又は既に兼任している事業場(このニにおいて「原事業場」という。)と同一敷地内にある事業場であって、当該申請事業場の事業用電気工作物の設置者及び当該原事業場の事業用電気工作物の設置者(このニにおいて「両設置者」という。)が次に掲げる要件の全てを満たすもの
(イ) 両設置者間において締結されている1.(1)①又は②の契約等において、規
則第53条第2項第5号に規定された事項(点検頻度に関するものを除く。)に
準じた事項が定められていること。
(ロ) (イ)に定める事項を、当該申請事業場及び当該原事業場に勤務する従業員その
他の関係者に対し周知していること。
(ハ) 保安規程において、(イ)に定める協定を遵守する旨を定めていること。
親会社というのは子会社の議決権の50%以上を保有している場合の会社を指し、同一の親会社、子会社というのはいわゆる兄弟会社というものを指します。ただ、資本関係が薄くなる孫会社に関しては保安確保の観点から「兼任」は認められていません。
電気主任技術者の兼任要件が緩和される/太陽光発電設備の場合
電気主任技術者の兼任の条件・要件として設置者が他の事業場から兼任させられる場合、その資本関係が①同一会社、②親子関係会社、③同一の親会社を持つ子会社である必要がありました。なお、孫会社は資本関係が薄いので兼任は認められていません。
このことにつき、平成25年に以下のことを政府は決定しました。
「太陽光発電設備を設置する兼任事業場が当該電気主任技術者が常時勤務する事業場と同一敷地内にある場合、又は太陽光発電設備を設置する兼任事業場が当該電気主任技術者が既に兼任している事業場と同一敷地内にある場合には不要とする」
(平成25年度上期結論、結論を得次第措置)旨、閣議決定している(「日本再生加速プログラム」
(平成24年11月30日))
つまり、太陽光発電設備を設置する兼任事業場が、常時勤務する事業場と同じ「敷地内」にあるような場合、資本関係がなくても兼任が可能になるのです。敷地内という意味は、経済産業省QAで、敷地内の定義を「敷地内にある一方の電気工作物で発生した事故(代表例としては、屋根に設置した太陽電池発電設備の火災事故や破損事故)がもう 一方の設備の保安に密接に影響するといえる場合を示します。 」としています(参考)。
これを受けて内規も改正が加えられました。その兼任に関する改正は以下の表のようになっています。
同一敷地内において設置者の異なる複数設備に係る電気主任技術者の兼任を認めることについては、設置者間に資本関係がない場合であっても、以下の条件を設けることによって保安の確保が可能であるため、内規について所要の改正を行う。 | |
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① | 設置者間で締結されている電気主任技術者に関する労働者派遣契約又は委託契約において、日 常点検や、不測時の対応、連絡体制、対応方法及び設備の関係者への内容の周知等が含まれ、 両設備の総合的な保安を確保するためにも各設置者間の責任の所在が明確に記載されている こと。 |
② | 保安規程において、上記協定等を遵守することを明記すること。 |
太陽光発電設備の建設件数は増加傾向にあるので、太陽光発電設備の設置者における兼任の条件も緩和されたのでしょう。
外部委託と兼任の違い。兼任の申請方法
外部委託の条件とは?外部委託と兼任
事業用電気工作物の設置者は電気主任技術者を選任しないといけないのですが、選任することが不要になる場合があります。それは、不選任承認と呼ばれるもので、「外部委託」のことを指します。この外部委託が可能になるには以下のような条件が必要になります。外部委託先として電気保安法人などが挙げられます。電気保安法人に関しては☞「電気保安法人とは?その働き方や年収」もしくは、電気保安法人ではなく個人の電気管理技術者に外部委託をすることが可能です。電気管理技術者に関しては☞「電気管理技術者とは?なるために必要な条件とは?」
自家用電気工作物の規模 |
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電圧7000V以下で受電する事業場等 |
出力1,000KW未満の発電所(原子力発電所除く) |
電圧600V以下の配電線路を管理する事業所 |
この条件を満たせば電気主任技術者の選任を外部委託することができます。外部委託と兼任の違いとは、外部委託はそもそも自社選任とはまったく異なるそれぞれ独立たものです。外部委託の場合だと、委託費用が発生しますが、兼任の場合資本関係にある会社の所有する他の事業電気工作物の事業場から電気主任技術者を兼任することができます
兼任の申請に必要な書類とは?
電気主任技術者の兼任を申請する際には以下の書類を各地方の保安監督部に提出します。
必要書類 | |
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主任技術者承認申請書 | |
主任技術者免状の写し | |
執務に関する説明書 | |
選任を必要とする理由書 | |
主任技術者の所属が確認できるもの |
まとめ
以上のように、電気主任技術者の兼任に関する情報を紹介してきました。電気主任技術者の兼任の条件・要件は電気保安の柔軟性を担保するという点で非常に有意義な制度です。先の太陽光発電設備においての兼任要件の緩和等、兼任要件も今後また緩和する可能性もあります。