2020年4月より電力自由化の第三弾と言われる「発送電分離」が行われます。発送電分離とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
本稿では、発送電分離の概要や、メリット・デメリットなどについてご紹介します。

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発送電分離とは?その概要、目的、方法について

発送電分離とは発電と送電の分離

従来より、電気を発生させる発電設備、電気を送電する送配電設備共に、それぞれの大手電力会社が所有及び管理をしてきました。
この二つの設備が揃って初めて電気を供給することができます。電力会社が行なっているこの「発電」の事業と配電を含む「送電」の事業を別個に分けることを指すのが「発送電分離」です。

発送電分離の背景と目的

従来の日本国内の電気事業形態では、地域ごとに各電力会社が「発電」「送配電」「小売」の3つの事業を全て担っていました。 このような電力会社の地域独占展開のおかげで、全国に電気を供給するためのインフラが整ったといえます。

また従来、小売については、発電や送電のコストに応じて電気の小売価格が定められる「総括原価方式」が採用されていました。 そのため、電力会社が発電、送電設備に費やしたコストも安定的に回収することが可能だったのです。

しかし、この従来の電気事業形態には、経営面での非効率性が指摘されていました。そこで、電気料金の抑制と電力企業の事業拡大、消費者の電気利用に関する選択肢の拡大を実現するため、「電力システム改革」が敢行されることになります。この改革の一環として行われるのが発送電分離です。

発送電分離には4つの制度がある

発電部門と送配電部門を分けるにあたっては、4つの分離制度が存在します。

一つ目は「会計分離」です。文字通り送配電事業の会計を他の事業の会計とは別のものとするという分離方法であり、主に料金の支払いの点で他の電力会社との間で公平性が保たれるようになります。

二つ目は「法的分離」で、送配電事業を担当する部門を切り離して別会社とすることで、会計や事業、従業員の区分を明らかにする方法です。
ただし、法的分離では資本関係は容認されているため、持株会社としての運用が想定されています。

三つ目は「所有権分離」です。所有権分離は法的分離よりもさらに進んだ考え方で、別会社とした上で発電や小売りを行う部門との資本関係を解消する分離方法となります。

そして、四つ目が「系統運用機能の分離」であり、「系統運用機能」とされる送電線の運用などを行う機能だけを組織として分離する方法です。この場合、送配電設備は元の会社に残したままと想定されています。

2020年から始まる発送電分離で何が変わるのか?

送配電と小売りの法的分離が始まる

発送電分離により、発電や電気の小売りの部門に関しては自由化により新規電気事業者の参入が期待できるようになります。
それに対して、送配電部門については、新規参入を促すのではなく従来通り一事業者が送配電サービスを担う形態を残す方針が取られる予定です。

理由としては、電線や電柱といった送配電設備の建設や管理、電気の需要と供給のバランス調整などの業務は一つの企業が統一して行う方が効率的であるという点が挙げられます。
そのため、現状の送配電設備を継続して利用しつつ、他の事業者も送配電網を平等に利用することができるよう、中立性を確保する改革が求められているのです。

東京電力、関西電力、中部電力の取り組み

東京電力は、「燃料火力事業」「送配電事業」「小売事業」を分離して子会社とし、親会社は原子力・水力発電事業を担っていくという方針を固めています。福島の再生を早めることも狙いの一つとした取り組みです。
関西電力でも、前述の送配電部門の中立性を重視し、持株会社方式、あるいは発電・小売一体方式により送配電部門を分離する方針を明らかにしています。持株会社方式とは、電気事業を行わない持株会社の下に発電会社、送配電会社、小売会社を独立して設置する方式です。

一方発電・小売一体方式は、発電・小売事業を行う親会社の下に子会社として送配電会社を設置する方式であり、形式に差はあれどいずれも送配電部門の中立性を高める方式と言えます。
中部電力においては、電力の自由化を受けて2016年4月より発電、送配電、小売りの3つの事業についてカンパニー制を採用し、各々自律的に運営を行なってきました。
更に、前述の二社と同様にカンパニー制を更に深化させて3事業を分社化を検討を進めています。

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発送電分離のメリット

その①競争原理で電気料金が下がる?

発送電分離のメリットとして予想されるのが、まず電気料金が下がるのではないか、ということです。

従来は大手の電力会社の地域独占の状態が続いていたため、電気料金の大幅な変動はありませんでした。 発送電分離により、今後は地域独占の状態が崩れ、他の電気事業者との競争が起きる可能性が出てきます。その結果として電気料金の引き下げが起きる可能性も考えられます。
海外では、発送電分離導入後にすぐに電気料金が見直されたという実績はまだ見られませんが、長い目で見れば電気の低価格化が期待できるかもしれません。

その②再生可能エネルギーの導入が加速する

再生可能エネルギーとは、石油や石炭のような有限の資源ではなく、風力や地熱、太陽光など自然界に常に存在するエネルギーを指します。
東日本大震災での原発事故以降、日本国内では電力供給を石油や石炭、天然ガスを使う火力発電に頼っているのが現状です。
しかし、今後再生可能エネルギーでの発電を主とする新しい電気事業者が参入する可能性もあります。需要が高ければ、再生可能エネルギーの主電源化に向けた取り組みもより積極的に進められていくでしょう。

その③発送電分離で設備信頼性が向上する

発電部門と送電部門、小売り部門が分離されると、それぞれの部門が個別の専門事業として運営されることになります。 特に送電部門は、従来の料金規制の下、中立性を維持しながら送電設備の保守、修繕、強化を行います。
その結果、従来に加えて設備の信頼性が向上するのではないかという期待の声も上がっています。

発送電分離のデメリット

その①電気の品質が落ちる可能性がある

一般的に、発電部門と送電部門の連携が密である程、平常時の運用や停電などの問題発生時の対応が安定して、かつ迅速に行えると考えられます。
従って、発電部門と送電部門が別会社となり双方の連携が取りにくくなれば、電気の品質が下がる可能性もあることが指摘されているのです。

その②発電事業者による電気価格つり上げが発生する可能性

発電を担う新しい事業者が電力市場に参入することで、価格競争により電気料金の値下げが期待できる反面、電気価格の吊り上げが意図的に行われる懸念もあります。

例として挙げられるのが、アメリカで2000年に起きたカリフォルニア電力危機での事件です。
カリフォルニア州の電力自由化に際して、エンロン社を中心とした複数の企業が自由化の穴をついて人工的な電力不足を引き起こし、電気料金を高騰させたのです。このような前例がある以上、日本国内でも同様の事態が引き起こされる可能性も0ではありません。

その③経済性が下がる可能性がある

発送電分離が適用されると、これまで一つの電力会社が行なっていた運用が分離されることになります。これまで通りの一元的な運用ができなくなることで送配電効率が低下することも、懸念されていることの一つです。

発電、送電部門が別の会社として成り立つ以上、従来よりも連携にはコストがかかることが想定されます。安定運用のためのコストが嵩むことで、その分のしわ寄せが電気料金の引き上げにつながり、結果的に経済性の低下を招く可能性も想定しておかなければなりません。

まとめ

発送電分離実施が完了すると、実質電力自由化の政策が全て実施されたことになります。この電力の全面自由化は、歴史的にも稀な規模の電力市場の改革であると考えられています。期待されるメリットも懸念されるデメリットもそれぞれありますが、日本経済全体にとっても大きな契機となるかも知れません。

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