エネルギー資源の乏しい日本では、長年エネルギーの有効活用化が叫ばれてきました。そのことは日本の課題のうちの一つとして有名でしょう。課題解決の政府の施策としていくつかのエネルギー政策は実行されてきました。

さらには環境問題意識も高まり、CO2削減は日本だけでなく地球の共通課題としてあげられるようになっています。環境にやさしく、エネルギー資源を有効活用できる発電方法などは近年盛り上がりを見せてます。

中でも太陽光発電や風力発電、バイオマス発電などの発電です。これらは再生可能エネルギーとくくられています。そのような文脈の中で、今回紹介するのは「地域熱供給」です。

地域熱供給とは何なのか?どんなメリットがあるのか?海外の事例ではどうなのか?地域熱供給の求人はどんなものか?といった観点から地域熱供給について迫ります。

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地域熱供給とは~DHC?~

まず、地域熱供給とは一般社団法人日本熱供給事業協会によるとこのような定義されています。

1か所又は数か所の熱供給設備(プラント)から冷水・温水・蒸気などの熱媒を、導管を通して複数の建物等に供給し、冷房・暖房・給湯などを行う事業を『地域熱供給』といいます。

普通の熱供給ではなく、’地域’とついているのは広域に熱供給が行き届くことからこのように地域とついているようです。つまり、地域の住宅やビルに蒸気、温水、冷水などを集中的に供給し、冷暖房に使用するシステムなのです。健康食品のようですが、地域熱供給(地域冷暖房とも)=D.H.Cとは「district heating and cooling」のことを指すようです。

とは言ってもなかなかイメージしにくいのが地域熱供給ですが、以下のようなイメージになります。

DHCとも呼ばれる地域熱供給のイメージ図:出典

DHCとも呼ばれる地域熱供給のイメージ図:出典一般社団法人日本熱供給事業協会

このようにしてエリア一帯の熱供給を効率よく供給できる仕組みが地域熱供給なのです。

このような大規模な熱供給が可能になった端緒は1972年制定の熱供給事業法があってこそです。こちらに詳しい熱供給事業法がのってあります☞エネルギー資源庁

熱供給事業法の規定による熱供給事業とは以下のような仕組みになります。

熱供給事業のイメージ図:出典:

熱供給事業のイメージ図:出典:資源エネルギー庁

地域熱供給とは言っても、熱を供給する熱源が必要になります。熱源がなければ、供給はありえません。地域熱供給の熱源は都市ガス、石油、LKG、石炭、ヒートポンプ、ごみ焼却などがあります。非常に幅広い熱源を有効にかつ広域に供給するシステムなのです。

地域熱供給の特徴は、地域を一つの単位として捉えていることにあります。

地域熱供給の事例

地域熱供給の事例: みなとみらい21

地域熱供給の事例:
みなとみらい21

近年地域熱供給の事例は増加傾向にあります。たびたびニュースにもあがるように政府は特に再生可能エネルギー分野の推進に積極的です。そのような背景もあり新エネルギーを利用した地域エネルギー供給システムの導入を推し進めています。その中でも大規模に行われているのが横浜市での事例にある「みなとみらい21」熱供給です。

この「みなとみらい21」では熱供給により、みなとみらい地区のすべての住戸に冷水・蒸気を送っているシステムなのです。

みなとみらい21だけではなく東京丸の内、六本木ヒルズ地域、東京スカイツリー地域も代表的な事例です。

このようにして、いかに都市インフラとしての機能を果たし、生活に貢献かがわかります。

次に地域熱供給のメリットについてを解説します。

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地域熱供給のメリット

地域熱供給にはなにかしらのメリットがあるので、数多くの企業が事業を行っています。2017年現在で熱供給業社は全国で76社あり、134地域で熱供給事業を行っているようです。

メリットその①低炭素社会の実現に貢献

地域熱供給(地域冷暖房)は省エネルギー効果を発揮することで二酸化炭素(CO2)の排出を抑え、低炭素社会の実現に貢献できます。地球温暖化という課題はだれしもがご存知な課題と認識されています。今後の社会において地球温暖化の原因の一つであるCO₂の排出削減は目指していかなければならないことだとされています。

そのような社会の中で、地域熱供給は低炭素社会の実現に大きく寄与するでしょう。

メリットその②防災にもつながる!

災害大国日本において特に災害対策というのは必須の事項です。地域熱供給は防災としての機能も果たします。

地域熱供給は蓄熱槽水により、火災などの際に防災の役割を果たします。

地域熱供給は蓄熱槽水により、火災などの際に防災の役割を果たします。出典:一般社団法人ヒートポンプ・蓄熱センター

メリットその③省エネ実現

地域に存在する“再生可能エネルギー熱”(太陽熱、地中熱、河川熱、海水熱、下水熱等)や“都市排熱”(清掃工場排熱、工場排熱、地下鉄・変電所排熱等)を地域熱供給プラントに導入し、高効率に熱をつくり、地域全体で利用することにより、大幅な省エネルギーを実現することができます。

このような点が一般的に言われる地域熱供給のメリットです

熱供給事態は地域熱供給が盛んになる前からおこなわれていました。

これまでと違い、地域熱供給はどんな点が優れているのでしょうか?

建物別冷暖房方式と地域熱供給の違い

建物別冷暖房方式の仕組み

建物別熱供給の仕組み

建物別熱供給の仕組み

建物別冷暖房方式とは、建物ごとに冷暖房・給油を行う方式のことであり、ビルの屋上や窓にエアコンの屋外機が設置されていることがあります。このような方式は通常の方式で、多くの建物で取り入れられた方式です。

ですが、建物ごとに冷暖房・供給設備を設置する関係上どうしてもエネルギーや設備のために多くのスペースが必要になるのです。

さらに、建物ごとに熱供給を行うために、未利用のエネルギーが発生するといったことが起きていました。

未利用エネルギーとは温度差エネルギー(海、河川)、廃棄物エネルギー(ごみ焼却炉)、廃熱エネルギー(地下鉄)などのことを指します。

とはいっても熱供給が不足する事態は建物管理者的に避けたい事態ですので、想定の熱需要より上回る熱需要をに積もっています。実際の熱需要よりも過大になってしまうのはこうした背景があるからです。

建物別冷暖房方式と比較したときの地域熱供給のメリット

  1. 地域熱供給は、地域を一つの単位としているので熱供給の過不足が起きにくいシステム!
  2. 未利用エネルギーの活用が可能!
  3. 建物別冷暖房方式に比べスペースを圧迫しない!

などといったメリットが通常の建物別冷暖房方式と比べてあります。

そのほかのメリットとしては、以下の協会の記事で詳細にわかりやすくまとめられています。

地域熱供給(地域冷暖房)事業のメリット | 一般社団法人日本熱供給事業協会

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地域熱供給のデメリット

何事もそうですが、メリットがあればデメリットも存在するのが世の常です。地域熱供給にもデメリットはあります。とはいえデメリットがあるとはいえ、地域熱供給のメリットがデメリットに比べあまりにも大きいので地域熱供給は進んでいるのでしょう。

とはいえ、地域熱供給にはどんなデメリットがあるのかを知っておくことは地域熱供給を理解するうえで重要なことでしょう。

デメリット①:イニシャルコスト(初期費用)が高い?

初期投資
熱生産設備(ボイラ、太陽熱収集、CHP)への投資
地域熱供給網(パイプなどの供給インフラ)への投資
運営費
地域熱供給インフラの運営、保守
生産設備の運転、保守
事務費(請求書発行など)
燃料価格
電力価格(電力の利用とCHPプラントの場合)
生産設備の効率 (ボイラのエネルギー効率など)
地域熱供給網における熱損失
税金・財政支援
税金と付加価値税(VAT)
財政支援/助成金

地域熱供給の導入・運営・保守管理コストとして以上のようなものが挙げられますが、この中でも初期費用が高度な技術力が求められることから高くなっているようです。

地域熱供給(地域冷暖房)は、イニシャルコストが高いというのはしばしばいわれることです。一つの地域という単位に配管などを敷設しますから初期費用はおのずと高くなります。

管路(地域導管)が長くなると維持管理や熱媒の搬送の費用が増大してしまうという欠点があります。

デメリットその②:未利用エネルギー

まず未利用エネルギー活用法には以下のようなものがあります。

発生源 形態(媒体) 利用方法
河川水 ヒートポンプ熱源、ヒートシンク、冷却水等
海水 ヒートポンプ熱源、ヒートシンク、冷却水等
地下水 ヒートポンプ熱源、ヒートシンク、冷却水、融雪等
下水 生下水 ヒートポンプ熱源、ヒートシンク
処理水 ヒートポンプ熱源、ヒートシンク
ごみ焼却排熱 温水
(発電用復水器)
ヒートポンプ熱源、直接利用
地下鉄・地下街 空気 ヒートポンプ熱源
地中送電線・変電所 冷却水・冷却油 ヒートポンプ熱源、直接利用源
工場等 高温ガス 蒸気による熱回収、発電・熱供給
温水 ヒートポンプ熱源、直接利用
LNG排熱 発電、空気液化等
発電所(復水器) 温水 ヒートポンプ熱源、養殖利用等

出典:経済産業省エネルギー庁ウェブサイト

未利用エネルギーとしてしばしば指摘される点としては次のようになります。

  • 広く、浅く分布している
  • 時間的な変動が大きい
  • 需要地との距離が離れている

これらの点は未利用エネルギーの特徴ともされることがありますが、未利用エネルギーの活用コストが高いわりに未利用エネルギーは小規模で不安定なエネルギー資源であることから地域熱供給のデメリットの一つといえるでしょう。

以上のように地域熱供給についてのメリットとデメリットを紹介してきましたが、日本での地域熱供給の歴史はまだまだ浅く、欧州ではドイツが1875年に小規模ながら地域熱供給を実現させています。欧州に比べれば日本での地域熱供給の導入はまだまだですが、欧州の事例を参考にすることは有意義といえるでしょう。

欧州の中でも地域熱供給が国中で広がっているデンマークの事例を見てみましょう。

地域熱供給~デンマークの事例~

日本ではみなとみらいや六本木ヒルズなど栄えたエリアでの地域熱供給が盛んです。一方、デンマークではオフィスエリアだけではなく一般住宅街においても地域熱供給(地域冷暖房)システムが広がっているようです。デンマークでは全住宅戸数の50%で地域熱供給が進んでおり、都市地域では約70%で導入されています。

デンマークでの地域熱供給の割合は以下のようになります。

Denmark-DH-share(地域冷暖房)の普及具合

Denmark-DH-share(地域冷暖房)の普及具合

このようにデンマークでは地域冷暖房が約6割を占めています。それほどデンマークでは普及が進んでいるのです。

デンマークでの普及の背景と普及のワケ

背景

デンマークがここまで熱供給を熱心に導入する背景としてはオイルショックがあり、当時北海油田の石油に依存していたデンマークは大打撃を受けることになりました。そのような中エネルギー資源の重要性が「デンマーク・エネルギー政策」(1976年)が打ち出され、そのような政策の中で熱供給の重要性が注目を浴びるようになりました。

普及率のワケ

蒸気のデンマーク・エネルギー政策の一環として省エネルギー・脱石油の重要施策として地域暖房を位置づける「熱供給法」を制定しました。自治体による地域の調査に基づいた最適な熱供給プランを組み立てたのです。

1982年に天然ガス導管、地域暖房システムに接続することを義務化しました。さらに1988年に住宅において電気による暖房を禁止しました。このようなトップダウンでの行政主導によるエネルギー政策転換は、国民に動揺を与えていたでしょう。

ですがそのかいあっての高いエネルギー自給率の実現なのでしょう。

地域熱供給(地域暖房)の求人特徴と、日本の地域熱供給のこれから

地域熱供給の求人情報例

地域熱供給をするための資格

地域熱供給で求められる資格としては「ボイラー技士」資格が求められるようです。ボイラー技士は特級、1級、2級が存在します。2級以上あればよいとする求人もあるので、ボイラー技士の上位種を必ずしも保有している必要はないようです。

業務内容

業務内容は地域熱供給設備の運転管理業務になることが多いでしょう。地域熱供給設備は熱源、水源などを利用するので、熱源などの設備管理業務も行うことがあります。

具体的にはガスエンジン設備の管理業務などを行います。日本では、まだ導入が進んで日にが浅いということもあり技術面でのキャッチアップが求められているようです。新技術などを体験できるという意味でも今のうちのうちに、地地域熱供給設備を経験しておくことは将来的なメリットにつながるでしょう。

年収、勤務形態

求人情報などにもよりますが年収はおおよそ450万円程度になるようです。地域熱供給は24時間稼働しているので、その管理者は日勤と夜勤に分かれて勤務しています。夜勤のほうが年収は高い傾向にあります。

日本の地域熱供給のこれから

日本の政策としてエネルギー自由化は進んでいます。特に電力自由化の波で始められた「固定価格買取制度(fit)」は記憶に新しいでしょう。

そのような流れの中、地域熱供給エリアで熱だけ供給するのではなく、電気も合わせて供給するようになる可能性があります。

日本でも今後地域熱供給設備の建設も増加していく可能性がありますし、熱供給業者が電気事業を始める可能性があります。