近年の電力自由化に伴うエネルギー政策は枚挙にいとまがないほどに数多くありますし、それに伴いサービス提供をする企業なども多く出てきています。スマートシティやスマートコミュニティ等は聞きおぼえのある言葉でしょう。

そうした中、注目されているのが「マイクログリッド」です。マイクログリッドは分散型の発電設備を需要家である個人やビルに近辺に設置することで最小単位(マイクロ)で電気を供給するのです。

今回の記事ではマイクログリッドに関する定義やビジネスモデル、事例や課題についてを紹介します。

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マイクログリッドとは?

マイクログリッドの意味、定義

マイクログリッドの全体像(出典:NEDOホームページ)

マイクログリッドの全体像(出典:NEDOホームページ)

マイクログリッドに関する明確かつ統一的な定義はあまりないのですがマイクログリッドは「閉じたエリア(領域)において、さまざまな電力需要家・消費者に小規模発電網を太陽光発電、バイオマス発電、風力発電等の再生可能エネルギー設備を連結し電力需要を賄うという構想」のことを意味します。

これまでの電力需給関係は電力を必要とする都市・地域に電力会社の発電施設から送電する集中発電方式をとっていました。これに対する形でマイクログリッドは分散型電源としての機能を果たします。マイクログリッドはそれゆえ、分散型電源や、分散型電力網とも呼ばれます。

マイクログリッドの実現には一見して太陽光発電の設置など様々な電気設備を連結させなければならないため、難しそうな印象を持たれます。マイクログリッドの実現のためにはマイクログリッドを支える基幹である「電力貯蔵システム」、「分散型電源管理システム」が必要不可欠なのです。簡単にマイクログリッドの全体像は以下のようになります。

マイクログリッドの全体像

マイクログリッドの全体像(マイクログリッドの仕組み)

マイクログリッドを支える電力貯蔵装置

マイクログリッドにおいて電力貯蔵装置を導入するかどうかに関して、電力貯蔵装置の規模に関しては近年研究が進んでいる分野でもあります。電力貯蔵装置には蓄電池(詳細)やフライホイール動力設備等がありますが、蓄電池は近年の市場の伸びからして導入が検討されるようになっています。

どのような設備を電力貯蔵装置として設置するかについては各電力貯蔵装置を用途に応じて比較しなければなりません。

マイクログリッドを支える電力網管理システム

スマートグリッドを実現する際に必要になるのが、電力の監視システムです。なぜなら、マイクログリッドは様々な設備を連結するので各設備の発電効率や発電の安定性を監督する必要があるからです。

そんな電力網管理システムの開発・実運用に動いてるのがオラクル社です。オラクル社の電力網管理システムは「Oracle Utilities Network Management System」と呼ばれる管理システムです。データの蓄積・分析・フィードバック等を備えたシステムになっているようです。スマートグリッドの推進に向けてオラクル社以外にも電材網管理システムを開発する企業が今後多く出てくるのではないでしょうか。

スマートグリッドの申し子マイクログリッドのメリット

日本社会がスマートグリッドを推し進めてスマートシティの実現に向けて年々政策や、エネルギー基本計画を見直していたりしています。そんななか注目されているのがマイクログリッドですが、このマイクログリッドには具体的にどんなメリットがあり推進されているのでしょうか?

メリットその①電力安定供給

マイクログリッドの全体像・仕組みでみたようにマイクログリッドは多くのエネルギー源を連結したものになります。ですので、エネルギー供給源が一つではなく複数にまたがっていることから特定のエネルギー源の依存を防ぐことができるのです。

例えば、日射量に影響されやすい太陽光発電設備が十分なエネルギーを確保できない時期には風力発電による発電で賄うことができます。

発電設備同士を組み合わせることによって効率的・効果的に制御をすることで、電力ピークカットも可能になりますし、出力変動に応じた運転が可能になります。

そうしたことからマイクログリッドはエネルギー源としての安定性は高いといえます。

メリットその②建設・設備投資コストが低い

通常の発電では、原子力発電や火力発電設備が設置されている地域から都市部そのた地域に送電しますが、この集中型方式ですとどうしても送電線建設コストが広域であるがゆえにかかってきますし、送配電線の安定性も完全には担保されていません。

ですが、マイクログリッドの分散型電源方式ですと、電気や熱を使用する需要家が発電設備の近隣に位置している関係上、送電線を長距離で運ぶ必要性はないです。ですので、建設コストは従来型と比較して低くなります。それに送電損失も近隣建設をすることで回避することも可能になります。

メリットその③環境にやさしい・フレンドリー

先述の通り、マイクログリッドは再生可能エネルギー設備を搭載しています。ですので、新エネルギーともいわれる環境にやさしい発電が可能になります。世界的な潮流を見てみてもエネルギーは既存の化石燃料などをしようしたエネルギーからクリーンエネルギーへとシフトしていますし、マイクログリッドは環境にやさしいと言えるでしょう。

メリットその④災害などのリスクに強い 

日本は災害大国ともいわれるように災害による電力供給の停止などはしばしば起こりえます。社会活動において今や電力供給の安定性の担保は欠かせません。そうしたリスクをマイクログリッドは乗り越える可能性があります。どういうことかというと、分散型電源であるからこそ送電網が切断されたとしても蓄電池装置などの電力貯蔵装置を活用して非常用電源として活用することができるからです。

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マイクログリッドの課題

2017年8月8日にマイクログリッドを推進する団体

「Global Smart Grid Federation(GSGF)」がマイクログリッドの各国の最新動向を白書として報告しています。(マイクログリッド白書英語版)

この白書では、マイクログリッドの実現に向けて障壁となっているデメリット・課題についてを報告してあります。その白書を基に課題についてをまとめました。

課題その①資金面での課題

マイクログリッドのシステムを構築するには建設コストが送電線などの建設の面から低いということをメリットの箇所で紹介しましたが、やはり補助金がなければマイクログリッド実現が難しいというのが現状であるようです。

設備費の高さがネックとなるような事例もあるようです。具体的にどのくらいのイニシャルコストが必要になるのかというと、トンガ王国でのマイクログリッド導入事例ではJICA等が主導となり、導入計画を実行していましたが、その供与金は15億円となっていました。この金額を高いとみるかどうかは不透明ともいえますが、マイクログリッド導入後のROI次第ともいえます。

次に見るマイクログリッドの課題とも密接な関係があるのですが、マイクログリッドには収益化、商業化が可能かどうかという問題があります。収益性次第ではコスト面での課題も解決できる可能性があります。

コストが高いとはいっても近年再生可能エネルギー設備のコストダウンは進んでいます。モジュール式または拡張可能なマイクログリッドシステムの出現によってコストを抑える技術革新も登場しています。また、マイクログリッドにブロックチェーン技術を応用したP2P(Pear to Pear)取引の実現によってコストを下げることも可能になるでしょう。

課題その②ビジネスモデルの構築ができていない

マイクログリッドの目指すところはもちろん上でみたような安定的なエネルギー供給源の構築ですが、目標の実現には行政だけでなく商業化が加速しなければなりません。そうすることによりマイクログリッドは市民権を得ることができます。しかし、それを阻む課題となっているのが、マイクログリッドのビジネスモデルの構築ができていないということです。

やや民法の物件的な話になりますが、マイクログリッドの所有権はだれに帰属するのかという法制度上の課題もありうるでしょう。デマンドレスポンスのネガワット取引型のようなビジネスモデルを構築できればマイクログリッドの市場はできるかもしれませんが、マイクログリッドのサービスの価値をどのように評価するのかということについては明確な回答はありません。対価が見込めるようなモデルを構築することは必要不可欠ともいえます。

マイクログリッドはつまるところ対価が見込めるかどうかが不透明であるからこそ、参入しようとする企業の資金調達に苦しむ可能性があります。電力自由化がなされているからこそマイクログリッドも電力市場に参加できるように制度面等を整える必要性があるでしょう。

マイクログリッドの事例~Sendai Microgrid~

マイクログリッドの事例:仙台マイクログリッド

マイクログリッドの事例:仙台マイクログリッド(出典:NEDOホームページ)

国内マイクログリッドの有名な事例としては、仙台のマイクログリッドでしょう。仙台マイクログリッドはNTTファシリティーズと東北福祉大学コンソーシアムが共同で開発したマイクログリッドになります。太陽光パネル、ガスエンジン、燃料電池を組み合わせた分散型電源マイクログリッドです。

仙台マイクログリッドはマイクログリッドを駆使し、介護施設や医療施設に熱、電気エネルギーを供給していました。

仙台マイクログリッドを有名たらしめたのは、東日本大震災時に一時ガスエンジンが稼働しなくなったものの蓄電池などを駆使し、再稼働を可能にし、介護施設や医療施設にいち早く電力を供給したのです。マイクログリッドの災害時の強さと安定性を証明した事例といえます。詳細はこちら☞https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/minkan_torikumi/3_3/0304.pdf

まとめ

以上のようにマイクログリッドについてを紹介しました。マイクログリッドはまだまだ理論的には昔からあるものの、事例は国内ではまだ少なく、マイクログリッド浸透にはまだまだ長い年月がかかる可能性がありまし、課題の解決もまだできていないようです。しかし、マイクログリッドビジネスモデルの構築が可能になればマイクログリッドを基軸としたスマートシティの実現も可能となるでしょう。