電力消費量を抑える省エネの動きは年々活発になっています。それは当然電気の供給の方法、あり方にも影響を与えます。直流による送電はこれまで変圧器で変電しやすいことから交流に比べて古くて劣るとも呼ばれてきました。

しかし、発電効率が交流よりも直流よりもよいこと、再生可能エネルギー発電に対する熱、消費電力量の多いICT設備の増加から、高電圧直流(HVDC)が注目されるようになりました。電力網への送電が高電圧直流だと効率がいいのです。今回はそんな高電圧直流の技術についてを紹介します。

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高電圧直流(HVDC)とは

高電圧直流はHVDC(=High Voltage Direct Current)の日本語訳になります。

高電圧直流は交流と何が違うのか

まず、直流(DC)とは電流の流れる方向と電圧が一定の電流・電圧のことを指します。具体的には鉄道、太陽光発電、電池、通信等で直流は使われています。

それに対し、交流(AC)とは流れる方向とで夏が周期的に変化する電流のことを指します。具体的には、コンセント、電力会社から供給される商用電源等のことを指します。

直流、交流を切り替える「直流⇒交流」、「交流⇒直流」際にエネルギーは損失してしまいます。直流と交流の切り替えを少なくすることでエネルギー損失を防ぐことができるのです。それを実現するのが高電圧直流なのです。つまりは直流⇒直流で直流電力をそのまま供給することができるのが高電圧直流(HVDC)なのです。

高電圧直流(HVDC)は従来(交流)の4段階の電力変換段階(AC/DC,DC/AC,AC/DC,DC/DC)を2段階(AC/DC,DC/DC)で済むようにしているのです。ですので交流による給電と比較して高電圧直流は発電効率が良いとされているのです。

高電圧直流(HVDC)が使用されるシーン

‘高電圧’とついているように、高電圧直流は比較的直流電力の電圧が大きいところ、消費電力が大きい施設や設備にて使用されます。具体的には膨大なデータの集積地データセンター、EV自動車、長距離海底ケーブル等で使用することが想定されます。

なぜそのような施設や設備で高電圧直流が使用されるのかというと、高電圧直流が非常に省エネ効果が高く、かつ発電効率がいいので、大量に電力を消費するデータセンター等では親和性が高いからです。

いづれも新しい社会の先端技術で高電圧直流は使用されるため非常に注目度の高い技術になります。

高電圧直流(HVDC)の二つの方式~自励式/他励式~

高電圧直流には90年代に実用化された自励式と以前からある他励式の2種類の方式がある。

自励式高電圧直流

交流・直流間の変換に、交流系統内の変換器の容量に見合った発電機が不必要なのが自励式高電圧直流ななのです。接続する系統になにかしらの制約がないのが主な特徴です。

他励式高電圧直流

自励式高電圧直流に対し、交流・直流間の変換に、交流系統内の変換器の容量に見合った発電機が必要なのが他励式高電圧直流です。変換の合間に発電機を介在させます。

自励式と他励では今後制約のない自励式が再生可能エネルギー設備の増加に伴い増加することが予想されます。

高電圧直流(HVDC)のメリット

メリットその①発電効率が高い

高電圧直流が発電効率が高いということに関しては先ほど触れました。交流送電以上に高電圧直流の方が発電効率が良いとされる理論的な理由はトマスエジソンの主張するような理論になります。

それは最大電圧が交流以上に低くなることによって絶縁問題・絶縁破壊問題を解決できること、線路のリアクタンス(回路素子の両端に生じる電位差は回路素子を流れる電流に比例)制限がないとされること、静電容量による誘電体の損失がないとされることが挙げられます。

高電圧大容量の整流器(電流を一方向にだけ流す(整流)作用)が制作可能になり交流をトランス変換することによって高電圧に変換し、直流送電することが可能になったからこそ発電効率が交流以上に高まっています

つまり高電圧直流が発電効率が良いとされる根幹は高電圧直流用の整流器が開発されたことが理由となています。

具体的に発電効率がどれほど良いのかどうかについては高電圧直流の使用目的・用途、製品によって異なってくるでしょう。データセンターに使用される場合だと、DC380Vで各装置への送電を行い消費電力を交流対比で15%削減できるとの見込みも建てられているようです。

メリットその②高電圧直流(HVDC)で高い信頼性

電力供給において電源から電気が安心して送電されるかということは人々の生活に密接な関係をもつ以上非常に重要なことです。高電圧直流であれば送電において高い信頼性を担保できるようです。

高電圧直流のメリットの一つである信頼性の高さはしばしばデータセンターなどの大規模データ集積地での文脈で語られることが多いです。というのもデータセンターにはほぼほぼUPS電源が設置されていますが、データセンターに内蔵されたUPSでは内部で直流/交流/直流変換がなされています。

つまり、変換の際にエネルギー損失が起きていますし、変換を行う関係上故障などのトラブルも発生してしまいます。データセンターのUPSにおいてこのことは課題とされていました。せっかくの非常用電源も故障しているのではとんでもないことです。このことにつき従前の交流送電UPSは信頼性の面からみると低いものであったのです。

しかし、高電圧直流によって交流切り替えをしなくて済むので故障の可能性を減らします。ゆえに高電圧直流は信頼性が高いとされています。

メリットその③長距離での送電が可能

高電圧直流は、長距離での送電に優れ、電力ロスを最小化させることに優れています。研究では、1000kmあたり、3%の電力損失しか発生させないほどに電力損失が少ないとされています。この利点に適しているのは長距離での送電を想定した海底ケーブルです。

高電圧直流海底ケーブルによる送電はすでにイタリア-モンテネグロ間でも使用されている技術です。高電圧直流がより浸透すれば☟のように世界中を高電圧直流によって結び付けることができる可能性さえ秘めています。

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このような海底ケーブルの電力網を構築するのは送電性能の高い(高信頼性・高安定性)のある高電圧直流が適しています。

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高電圧直流のデメリット

技術的には新しい部類である高電圧直流ですが、それゆえにデメリットや課題についてもあるようです。

デメリット:やはりコスト

洋上風力しかり、先端技術分野では開発コスト・導入コスト等様々なコストがかかってしまいます。コモディティ化するというほどではないですが、先端技術が一般的なものになる価格帯になるには技術革新を経るまでに長年の年月がかかってしまうものです。

特にコストがかかるのは海底ケーブルの敷設です。フランスとスペインの高電圧直流海底ケーブル設置の事例では2000MW高電圧直流ラインの提案ではピレネー山脈トンネル工事費用を含めて日本円で約880億円の建設費用が掛かるとの試算がなされていました。それゆえ膨大な資金が高電圧直流には必要になるのです。

特にアジア太平洋において高電圧直流の底ケーブルを敷設しようとなると、環境問題や地政学的リスクも含めた費用も計算に入れる必要性もあります。

また、高電圧直流は補助部品が多くなりがちで技術の標準化が難しいという課題もあります。

海底ケーブルのコストは高いことは想像するに難しいことではないですが、国内で見てみても北本直流幹線(北海道→本州、60万kW、亘長167km)のような事例ではケーブル費用を回収できる可能性もあります。

高電圧直流(HVDC)の市場動向

自励式と他励式では自励式高電圧直流の市場が伸びていくことが予想されています。特に三菱電機による2016年の自励式直流送電システム事業の参入は記憶に新しいでしょう。三菱電機以外にも今後多くの事業者が参入してくる可能性もあります。

下のグラフは三菱電機が2017年に報告した高電圧直流の市場の予測となっています。これをみると明らかなように、右肩上がりで市場は伸び続けていくようです。

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まとめ

以上のように近年再生可能エネルギー設備の増加、データセンターの社会インフラ化に伴い注目されてきている高電圧直流についてを紹介してきましたが、理論的にはエジソンの時代からあったものの長らくテスラ理論が支持されてきたこともあり最近まであまり注目されていませんでした。しかし、高電圧直流を支える整流器の開発などによって今後ますます期待される分野でもあります。高電圧直流の導入・運用事例について今後また紹介します。