ZEBとは何か?エネルギー需給の切り札
ZEBによく似た言葉に「ZEH」というのがありますが、
ZEHについては☞「ゼロの実現。ZEHとは何か」
ZEBとは?三段階のZEB
ZEBの定義
ZEBは「年間の一次エネルギー(水力や風力などの自然から得られた変換加工をしないもの)消費量がゼロまたはマイナスの建築物」と定義されています。
ZEBにはその名のとおりエネルギー収支が正味(ネット)でゼロになるような建築物のことですが、
必ずしも収支ゼロである必要性はないようです。ZEB普及に向けて政府は段階によってZEBの定義を分けているのです。
Nearly ZEBの定義
- Nearlyという意味の通り、限りなくエネルギー収支がゼロに近い建築物の事を指します。これを満たす条件として☟のZEB Readyの要件を満たしている必要性があります。厳格な定義は再生可能エネルギーにより年間一次エネルギー消費量をゼロに近づけた建築物のことを指します。
ZEB readyの定義
- これもReadyという意味の通り、ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率的な省エネルギー設備を備えた建築物と定義されています。
これらのZEBの段階をまとめると、このようになります。
2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、「建築物については、2020年までに新築公共建築物等で2030年までに新築建築物の平均でZEBを目指す」との政策目標が発表されました。ZEBに対する並々ならぬ意欲がうかがえます。
このような政策目標を達成するために政府は導入補助金の支援政策や技術支援を行っています。日本のエネルギー需給の抜本的改善の切り札として期待されているのが「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」なのです。
ZEBの仕組み
すべてのZEB建築物がこのような仕組みを内在しているわけではありませんが、大まかな仕組みは「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」の三要素でZEBは理解できます。
具体的には
創エネの観点
「太陽光発電」などの再生可能エネルギー設備の据付により、エネルギーを創出をします。冬場や日照量の少ない時期では「地中熱利用ヒートポンプ」などを使用しエネルギーを創出できるのです。
畜エネの観点
蓄電池などでエネルギーをためておき必要に応じて取り出して利用できるようになります。
省エネの観点
高効率なダルフスキンなどの断熱、遮熱技術や直射日光を遮断する自然採光(ライトシェルフ)を使用し、エネルギーを効率的に使用、貯蓄できるようになります。
ZEBの技術的仕組みに関する特徴としては、それぞれの技術要素のレベルが相当に高く、効率性を極めた設備などが複数据付られるので実際の設計、建築に困難性が伴っているということです。
その技術的課題やZEBの定義による認識のずれなどを解消するために政府はロードマップを策定したり、補助金、技術支援を行っているのです。なので、技術的な課題はいずれは解消できる可能性がありますし、日本の建築物のスタンダードが「ZEB」になる未来は訪れるでしょう。
ここまで、導入を推奨しているZEBですが、どんなメリットがあるのでしょうか。
ZEBのメリット
ここまでZEBの定義や仕組みについてを解説してきましたが、このZEBを導入するメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
メリットその①光熱費が下がる!
業務用ビルの光熱費の削減は建設会社や設備管理会社含め多くのプレイヤーにとっての責務となっています。
例えば、延べ床面積年間4,000~5,000円/m²かかるとします。有効面積率を70%とすると面積当たり年間6,000~7000円/m²になってしまいます。月平米換算すると月1,700~2,000円かかることになり、月光熱費50%省エネすると、月平米約1000円の低減が可能になります。
ZEBを導入すると、年間光熱費が半分以下にすることができるとされているのです。
メリットその②不動産価値が上がる!
建築物を建てるときには当然お金が必要です。そんなときに投資家などから資金援助を受けるでしょう。そんなときに環境に配慮した建築物かどうかを定める「環境認証」という制度があります。
この環境認証のスコアリングについては団体などによって評価指標が異なりますが、ZEB建築物は得てして高い評価をもらえるのです。
環境認証の例としては
国交省の「CASBEE」、日本政策投資銀行の「DBJ Green Building認証」、米国グリーンビルディング協会の「LEED認証」があります。
これらのような環境認証を受けた建物というのは不動産価値に寄与するので、政府の推奨するZEB建築物は環境認証も取得しやすく、その分不動産価値も向上するのです。
メリットその③防災対策でのインフラ機能!
度重なる災害による「停電」のリスクをZEB建築物は回避できます。
停電時で電力供給インフラが止まってしまうということは往々にしてあります。そうなると重要なデータなどが消失してしまいます。
事業継続計画(BCP)の観点でもZEBは防災に貢献できるのです。
ZEBにはこのようなメリットがあります。しかし、未だZEBの認知度と普及率はそこまで高くなっていません。政府目標として2030年までにZEBを推進していくと発表していましたが、ZEBにはどのような課題があり現状はどうなっているのでしょうか。
ZEBの課題
課題その①ZEBの定義が明確ではない
政府によるZEBの定義は一応なされていますが、定義がふわっとしているために需要家からすると比較がしにくい状況にあります。
これが原因で技術開発などの方向性が決められずにいるのがZEB業界の現状です。定義がされていない理由としては導入とのジレンマにあります。
どういうことかというと、定義通りにいくと再生可能エネルギー設置が必要不可欠となるが、太陽光発電設備の設置のための屋上面積が限られるなどの物理的な問題でZEB実現に困難性があるということです。定義を広範にすると、ZEBの意義が失われ、狭義にするとZEB実現が難しくなるのです。
この課題は日本だけでなく、世界的にも同様であるが、日本政府の見解は各国の状況を見てこの定義に関する課題を検討すると発表しています。
課題その②ZEB実現可能性に関するノウハウの欠如
ビルなどの建築物は一棟ごとに設計、建築の仕様が異なることから設計手法などの共有が難しく、ZEB普及の障害になっています。
また、どのようにしてZEBのコストを試算するかということについても明確な規定などは存在していないのが現状だそうです。
課題その③ZEB実現の動機付けの課題
ZEB建築物の仕組みを見るとわかるのですが、相当にイニシャルコスト(初期投資額)が高く導入障害の一因になっています。また、テナントやビルオーナーに対してZEBのメリットが何たるかについて十分に訴求できていないという課題があるようです。
これらのような課題を見ると、まだまだZEB建築物がスタンダード化するには遠いようです。
ZEBの現状
ZEBは実際に今の日本でどのくらい進んでいるのでしょうか?技術的にはまだまだ困難性が付きまとう比較的新しい分野ですが、現状においてZEBはどのくらい進んでいるのでしょうか?
まずは、ZEBの導入事例を見てみましょう。
ZEBの導入事例
これはZEBの段階のうち、「Nearly ZEB」に当たる事例です。一次エネルギー削減率が98.5%とあと1.5%あればZEBと認定されるので、非常にZEBの理想に近いような事例になっています。
なおこの施設は平成28年度の「省エネ大賞」に受賞されましたZEB化事業において印象深い事業であるといえるでしょう。この他にも「障害者支援センター大喜地」でのZEB化事業など少しずつZEB化の事例は増えてきています。
ZEBの導入実績
平成24年からZEBの導入実績をみてもまだまだ導入実績は少ないようです。今後普及率を拡大させていくためにはZEBの課題☝を克服しなければならないでしょう。
まとめ
今回は、次世代の建築物のスタンダートとなりうるエネルギー需給の切り札「ZEB」についてを紹介してきました。このZEBの導入がより一層進めば、真に省エネ大国「日本」が実現するでしょう。
ゼロ・エネルギー社会は足元難しそうですが、今後ZEB建築が進めばそのような社会を実現できるでしょう。