前回の記事でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)についてを紹介しましたが、今回の記事ではZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)[*ゼッチと読みます]を紹介します。
ZEBとは何かについては☞「未来の建築物のあたりまえ!ZEBとは」
ZEHとは何か?ZEHの定義
2016年ごろから大手住宅メーカーを中心にゼロエネ住宅が推進されるようになりました。屋根にソーラーパネルなどが付いた住宅を目にしたことがあるでしょう。
ソーラーパネルがついている全ての住宅がZEHではありません。ゼロエネ住宅のことをZEHと呼びます。文字通りエネルギーがゼロな住宅となりますが☟で詳しく見ていきます。
ZEHの定義
厳密な定義としては経済産業省によると
「建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ又は概ねゼロとなる建築物」
とされています。
簡単にZEHを図示すると以下のようになります。
このゼロというのは、図のようにプラスマイナスゼロという意味です。
人間生活をしていると必ず何らかの「消費」を行いますよね。この消費エネルギーをなるべく抑えるのが「省エネ」です。
さらに省エネで消費を抑えたうえで「創エネ」により消費分のエネルギーを創出する。この一連の流れをとりいれた住宅が「ZEH」(ゼッチ)なのです。ゼッチいですね。
なぜこのZEH住宅は推進されるようになったのでしょうか。
ZEH推進の背景
日本におけるエネルギー需給の課題
日本ではエネルギー需給の安定化が課題とされてきました。
特に民生のうち家庭部門でのエネルギー消費量を抑えるということの重要性は議会などでも指摘されていました。
近年は世帯数の伸びに対し、消費エネルギー量は改善傾向にあるのですが、より一層の消費エネルギー節約、およびECO推進のために2015年ごろから注目されたのが「ZEH」でした。
このことを象徴するように、今から2年後の2020年までに「標準的な新築住宅でZEHの実現を目指す」、2030年までに「新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」との声明が平成26年4月の「エネルギー基本計画」の中で示されました。
つまりZEH住宅推進は政策目標として位置づけられているのです
なぜ、国の政策目標とされるまでZEHは注目されるようになったのでしょうか。次にZEHの仕組みやメリットについてを紹介していきます。
ZEHの仕組みとは
ZEHの仕組み、四位一体のエネルギー
ZEHの仕組みは大きく4つの要素で理解できます。
「創エネ」「省エネ」「HEMS」「畜エネ」の4つがZEHでは重要視されています。
創 エネ | 名の通り、エネルギーを作るという意味です。主に太陽光発電システムを使用し日の光を電気エネルギーに変換します。 |
省 エネ | 省エネ換気や高効率空調、高効率照明、給油設備を使用し、エネルギー消費量をできるだけ抑えます。さらに断熱性や気密性を高めることで、効率的なエネルギー効果を発揮させます。 |
HEMS | HEMSというのは「Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネジメント システム)」の略で、家庭で使うエネルギーを節約するための管理システムなのです。電気やガスの使用量をモニタリングし、エネルギーの「見える化」が可能になります。 |
畜 エネ | 家庭用蓄電池の設置や電気自動車エネルギーを蓄えて無駄なく使用できるようにします。 |
HEMSを抜いた場合のZEHもあれば畜エネの代わりに「断熱」を入れているZEHの仕組みもありますが、省エネと創エネは共通しています。この辺りの違いは住宅メーカーの定義などにより異なっているようです。
エコキュートやエネファームなど近年、家庭用の環境にやさしくお財布にも優しい家電製品などが販売されるようになりましたが、これらの家電製品などを組み合わせていくとZEH住宅になるのです。
そんなZEHの仕組みなのですが、いったいどのようなメリットがあるのでしょうか?
ZEHのメリット
ZEHのメリットその①光熱費が抑えられる!
SLLの調査によると、電気代、ガス代、灯油台が夏、冬共に安くなったとの声が多く寄せられていたそうです。ZEH住宅に切り替えてから光熱費が安くなったと感じる家庭が多くあった模様です。
日射量の多い夏場では太陽光発電による売買も可能になりますので収支がプラスになることもありえます。光熱費を下げるだけでなく収入にもつながるというメリットがあるようです。
ZEHのメリットその②災害対策としてのZEH
平成16年(2004年)に起きた新潟中越地震では震度7という巨大な揺れが襲い、約30万世帯が停電となりました。当時もしも少しでも電力があれば、携帯電話に充電したりとできることはありえました。
災害いつ発生するか未知数なものです。ですので、災害に対して備えておくことは重要なことだといえます。そんなときのために予備電力を蓄えておけるZEH住宅は非常に災害対策になりえます。
太陽光発電により創エネをし、畜エネをしておくことで災害発生時に電力のない怖さから抜け出せる可能性があります。
ZEHのメリットその③健康にもいい
交通事故より多い死因である「ヒートショック」、急激な温度変化により身体が受け、最悪死に至ってしまう冬に気をつけたい症状です。
そんなヒートショックから身を守る役割もZEHはになっています。ZEHには断熱性があり、家の中の温度を常に一定に保つことができるのです。
これによりヒートショックを防ぐことができるわけです。
これまでZEHのメリットについてを紹介してきましたが、メリットだらけのZEHというわけでなくどうしてもデメリットは付きまといます。次にZEHのデメリットについてを紹介します。
ZEHのデメリット
ZEHのデメリットその①初期費用が高い
ZEH住宅にするためには、「断熱性の向上」「省エネ性能の高い家電設備の購入」「創エネ設備の設置」の3要件が必要になります。
普通の住宅に比べてこれらの設備などを導入するとなると、とてつもなく初期費用がかかりますし、追加の費用もかさみます。どれだけかかるかというと最低限のZEHで約130万円~150万円近くはかかってしまいます。
ですが、ZEH住宅導入補助金もありますので、どこまで初期費用が下げられるかについては不透明なところです。
また、光熱費を抑えることが可能とは言っても建築コストなどに比べて微々たるものであればさほどZEHのメリットを感じないかもしれません。
ZEHのデメリットその②発電量の不安定性
ZEH住宅には太陽光パネルを設置していますから、創エネ性能でいえば日射量の多い夏場であればエネルギーは確保できますし、売買は可能になります。
しかし、日射量に左右されるからこそ創エネ性能は安定しているとは言えません。
とはいえ、屋根の形により発電効率が大きく変化するのが太陽光パネルです。屋根が「切妻屋根」、「寄棟屋根」、「方流れ」によって発電性能も大きく変わってきますし、単純に太陽光パネルの性能だけでなく設計段階で発電の安定性を少しでも上げる工夫をする必要性があるようです。
また、冬場には断熱としての役割も果たせます。
ZEHのデメリットその③売買価格の低下
昔は住宅ローンを売電収入によって相殺することができましたが、現在では売電価格が市場かしたことにより買取価格は下がっています。
ですので、売買価格によってローン返済というのは難しくなっています。それに固定価格買取制度の余剰価格買取に関する2019年問題などのような制度的な不安定性もあり、売電のみで収入を立てたりすることは難しくなっています。
まとめ
以上のようにZEHの仕組みやメリット、デメリットについてを紹介してきましたが、このZEH、まだまだ推進の途中段階にあります。今後ZEH住宅が進んでいけばゼロエネルギー社会の実現も不可能ではないですが、足元制度的な問題やハウスメーカーの技術的な課題などの様々な課題があります。
このような課題を解決した先には日本社会のエネルギーに関する問題は少しは解決できるでしょう。