第三種電気主任技術者試験の「電力」科目で毎年のように出題されるのが「水力発電」です。水力発電は新エネルギーとされる太陽光発電や風力発電とは異なり、従来から存在する発電技術です。

水力発電は、高い位置にある水の力を利用して電気を生み出します。水力発電は高所の河川などで設置され、水車を利用した水エネルギーを機械エネルギーに変換する仕組みをもっています。そんな水力発電ですが、水力発電にも構造や運用方法によっていくつか種類があるのです。構造上の種類は、「水路式発電所」「ダム式発電所」「ダム水路式発電所」です。運用上の水力発電の種類は「流れ込み式発電所」「調整池式発電所」「貯水池式発電所」「揚水式発電所」です。これらの水力発電の種類についてを紹介していきます。

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水力発電の種類(構造):水路式発電所とは?

水力発電の発電方法の種類の一つとしてまずは、水路式発電所があります。水路式発電所とは、「自然の勾配を利用することで発電できる水力発電の種類です。河川の上流で取水し、緩やかな水路を作ります。そして、河川の上流と下流との落差を利用して発電する方法です。

構造的には、土砂侵入防止のための沈砂池や長い水路が必要になりますが、メリットとしてはダム式発電所などよりも建設費用が安くすむという点です。後に説明する運用方法の種類の一つの流れ込み式と合わせて利用されることが多いようです。

水路式発電(左:長野県大鹿発電所、右資源エネルギー庁参照)

水路式発電(左:長野県大鹿発電所、右資源エネルギー庁参照)

沈砂池というのは、流水中の土砂などを、沈殿によって取り除くための池のことを指します。また、以下の図では、水槽と示していますが、水路と発電所の中継地にヘッドタンクと呼ばれる水路と水圧管路を結ぶ水槽を介します。日本で有名な水路式発電所は、三重県南牟婁郡紀宝町大里 にある大里発電所です。綺麗な河川の流れが美しい場所に設置されたフランシス水車は見ものです。

水力発電の種類(構造):ダム式発電所とは?

次に、水力発電の種類の一つである「ダム式発電所」についてみていきましょう。ダム式発電所とは、河川をせき止めるダムを作り、人工的に貯水して落差と水量を得る水力発電所のことを指します。

ダム式発電所は、ダムを作るため、貯水量が大きくなります。それゆえに、無効放流(簡単にいうと、河川の水を発電に使わずに放流してしまうこと)がほとんど起きないのがダム式発電所の大きなメリットです。河川の利用率が非常に高くなるのがダム式発電所の特徴です。

ダム式発電所(左:長野県美和発電所)

ダム式発電所(左:長野県美和発電所)

その反面、ダムを建設しないといけないので、高額なコストをかけないといけなくなります。しばしば、ダム建設は公共投資の中でも争点になりますね。

ダム式発電は、発電出力が高く、起動・停止時間にが短いがゆえに、ピーク負荷運用に向いた水力発電の運用となっています。ダム式発電は、しばしば、貯水池式、調整池式と組み合わせて使用することがあります。

水力発電の種類(構造):ダム水路式発電とは

水力発電の種類のうちの一つに、「ダム水路式発電」という発電方法があります。ダム水路式発電というのは、先ほどのダム式発電と水路式発電の双方を合体させたような発電方法です。

ダムによる貯水量と落差に加えて、水路式の落差が加わるので、高落差・大容量水力発電になるのです。かなり巨大な水力発電になるので、想像の通り、建設費用はかなりの金額になってしまいます。

ダム水路式発電(左春近発電所)

ダム水路式発電(左:長野県春近発電所、出典:長野県庁)

これまでは、水力発電の種類をその構造面から資源エネルギー庁の図を引用しながら紹介してきましたが、次は水の運用面から水力発電の種類についてを紹介していきます。

水力発電の種類(運用):流れ込み式発電所とは?

水力発電の種類の一つ、流れ込み式発電所とは、河川の水を貯めることなく、自然流量をそのまま発電に使用する方式の発電所のことです。運用方法が非常にシンプルとなっています。

流れ込み式発電所(左:清内路水力発電所、右資源エネルギー庁参照)

流れ込み式発電所(左:清内路水力発電所、出典:中部電力新潟県、右資源エネルギー庁参照)

調整池や貯水池が存在しないために、設備の点検時や豊水期は無効放流となり、河川の利用率が低くなることが欠点とされています。流れ込み式発電所のメリットとしては、ベース負荷運用に向いているという点です。ベース負荷運転というのは、ある期間の電力使用状況において、需要電力が最低水準になるときの負荷のことを指します。

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水力発電の種類(運用)調整池式発電所とは?

電力の消費量というのは1日の期間でも相当に変化するものです。電力需要が少ない夜間(深夜)や週末の昼下がりなどの時間帯に発電を抑えて流水を調整池にため込むことで、電力需要が大きい昼間や平日時に使用水量を増加させて発電する方式の発電所です。

調整池式発電所(左:新潟県胎内第一発電所)

調整池式発電所(左:新潟県胎内第一発電所、出典:新潟県庁HP)

調整池式発電所のメリットとしては、電力系統の運用において、日間、または週間の電力量調整が可能な点です。ただ、水をある程度貯めなければ発電ができないので、降水量や自然災害に大きく影響を受け安い発電方式ともいえます、

水力発電の種類(運用):貯水池式発電所とは?

水力発電のキモは河川の水量にあります。河川の水量は日によってもそうですが、季節によっても変動するものです。水量が豊富で電力需要が比較的少ない春先や秋口なんかは河川の水を大きな池にため込むことで、電力需要が大きい夏季や冬季に貯水を使用して発電する方式の発電所となります。貯めこんだ水を季節ごとの需要に合わせて発電する、柔軟性のある発電方法です。

貯水池式発電所(左:愛媛県道前道後発電所)

貯水池式発電所(左:愛媛県道前道後発電所、出典:愛媛県庁HP)

貯水池式発電所のメリットとしては、季節に応じた発電量の調整が可能なことと、河川の利用率が高いことが挙げられます。河川流量は、季節によって大きく変化するが、豊水期の際には余剰水を貯水することができ、渇水期には放出して発電できるので、電力系統の運用において、季節または年間の電力量の調整が可能になるということです。

水力発電の種類(運用):揚水式発電所とは?

一日の電力消費量は時間帯によって大きくことなります。発電所を挟んで上部と下部に貯水池があり、夜間などの軽負荷時の余剰電力を使用することで、下部の貯水池の水を上部の貯水池に揚水し、昼間のような電力消費量がピークの際に、揚水した上部貯水池の水を下部の貯水池に流して発電する方式の発電所のことを揚水式発電所と呼びます。

揚水式発電所(左:九州電力宮城県小丸川発電所揚水式水力発電所)

揚水式発電所(左:九州電力宮城県小丸川発電所揚水式水力発電所,出典:土木ウォッチング)

揚水式発電所の「揚水」とは、電気エネルギーを水の一エネルギーに変換することで貯蔵することを指します。揚水式発電所のメリットとしては電力貯蔵およびピーク負荷対応が可能だということです。

ただ、揚水式発電所は木や岩石を等の自然環境を切り崩して開発するので、どうしても環境破壊のリスクが伴いますし、都市部での電力使用になるが、電力網を構築するのに相当な建設費用が掛かってしまいます。それに揚水式発電所は水を引き上げる仕組みになっているので、その電力を火力発電での電力で補う必要があることなどがデメリットです。

水力発電の種類のまとめ

種類概要メリットデメリット
水路式発電所上流と下流の落差を利用建設費用が安い無効放流が増える
ダム式発電所ダムを建設し、人工的に貯水→落差で発電河川利用率が高い建設費用が高い
ダム水路式発電水路式+ダム式高落差・大容量水量建設費用が高い
流れ込み式発電所自然河川流を使用し発電ベース負荷運用河川利用率が低い
調整池式発電所水を貯めて需要に応じて使用日間・週間の電力調整が可能貯水量に従うので、降水量による
貯水池式発電所季節に応じて大量に貯水季節・年間の電力量調整可能豊水期がないと発電効率が下がる
揚水式発電所軽負荷時の余剰電力を使用、下部の貯水池の水を上部に揚水電力貯蔵・ピーク負荷が可能環境破壊の可能性・都市部のみの電力供給、雨量によって寿命が変わる

以上のように水力発電の種類についてを構造面・運用面から資源エネルギー庁の画像を引用しつつ紹介してききました。水力発電は歴史の長い発電方法ですが、その種類がたくさんあることがわかりました。どの種類も一長一短ですが、環境や送電先の地域に応じた建設が重要です。なにより、水力発電の建設は安いものではありませんし、ほとんどが公共工事によって建設されるので、税金が使用されます。税金が使われる関係上、ダム建設の反対が取り沙汰されることがしばしばニュースになっています。水力発電の種類を知り、どんなメリット・デメリットがあるのかを知っておくことはニュースの見方を少し変えるかもしれません。