場合によっては感電の恐れのある現象「アーク放電」。今回の記事ではアーク放電とはどのような現象なのか?アーク放電の原理などの観点からアーク放電に迫ります。
アーク放電とは?
アーク放電は放電の一形態
そもそも放電とは+と-の電極間にかかる電位差によって、その間に存在する気体に絶縁破壊(導体間の絶縁の破壊)が生じることで電子が放出され、光、音を伴い電流が流れる現象のことを指します。
放電にはいくつか形態があり、火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電に分類されています。それぞれの放電形態については後に紹介していくとし、今回はこの中でも特有の音を放ち事故事例もあるアーク放電についてを紹介します。
アーク・プラズマ加熱の原理
アーク放電の一般的な定義はないようですが、支持を得ているのは「気体あるいは電極物質上記の最低電離電圧もしくは最低励起電圧程度の陰極効果電圧を有する期待あるいは上記中の電極間放電で、さらに放電は持続されていて、その電流によって陰極の電子放出の機構が支えられている」という定義でしょう。
アーク放電はまたの名を電弧放電(でんこほうでん)と呼びます。なぜアーク放電は電弧と呼ばれるのかというと、初期の放電灯で電極間にできた輝く部分が円弧になっていることからアーク放電とされています。上の図にあるように、アーク放電は低電圧、高電流の状態で発生します。
電極間の気体中に強い電界を印加(電気回路に電源や別の回路から電圧や信号を与える事)すると、もともと気体中にあった電子が加速され、気体中の中性粒子と衝突して電離を繰り返すうちに荷電粒子が急増することでやがて電極間に電流が流れます。つまり電離によりイオン化が起き、プラズマを生成し、その中を電流が流れます。
膨大な中性粒子が電極間にあるために拡散が非常に小さく、電流が狭い通路に集中した結果アーク放電へといたります。
狭い通路に電流が集中し、電子と中性粒子、イオンとの衝突、中性粒子間の頻繁な衝突によって電気エネルギーが熱エネルギー、光エネルギーに変化し、アーク(通電経路)の温度は5000°C以上の高温になるのです。このときの空間では気体が励起状態になります。
アーク放電の消弧
電気は即座に止めようと思っても止まらないのがその特性です。アーク放電のような過大電流が流れる場合も同様です。ですが、感電事故を防止するためにもアーク放電を速やかに、安全に消す方法を知っておく必要性があります。アーク放電を消すことを消弧と呼ぶことがあります。有事に至らないためにも消弧は必須です。消弧の方法はいくつかありますが、通常は各種メーカーが製造している遮断器を使用することになるかと思われます。
現在の主要な遮断器は真空遮断器(VCB)またはガス遮断器(GCB)です。遮断器の具備してないといけない項目は以下のようになります。
(1)定格電流を連続通電しても各部分が所定の温度上昇限度以内であること,また故障電流のような大電流が短時間流れても電気的,機械的に支障のないこと(通電性能),
(2)故障電流を所定の時間内に安全に開閉できること(遮断・投入性能),
(3)対地および同相端子間が所定のインパルスおよび商用周波耐電圧値をもつこと(絶縁性能),
(4)外部から与えられる指令に応じて可動接触子が所定の移動動作を行うこと(操作性能)がある
アーク放電(プラズマ)の活用
このアーク放電は高温であることから危険性が伴いますが、一方でアーク放電は簡単にプラズマを発生させられること、保有エネルギーが高いことから古くから溶接熱源や放電橙光源として使用されてきました。アーク溶接は非常に有名なアーク放電の活用事例でしょう。
身近な実験でいうと、アーク放電を利用したライターを作ったり、炭素棒を使ったアーク放電の実験、アーク放電で焼肉をするような実験などがあります。アーク放電は危険性が付きまとうので注意が必要ですが、簡単に実験できるものもあるので、自作でアーク放電を実験し、動画を投稿する人もいます。
アーク放電の高温プラズマ化学反応の応用例としては、金属精錬(高融点セラミックの窮状化等)、プラズマ合成(無機化合物の合成等)、結晶育成、高温熱分解などの分野でアーク放電の理論は応用され、技術開発によりエネルギー生成の理論的支柱を支えています。プラズマ柱を減圧化を行うことによってその構造を制御する方法が工業分野でも加速していますし、アーク放電は産業の発展につながる重要な理論ともいえます。
危険なアーク放電の事故と防止策
アーク放電事故の発生原因
アーク放電による感電事故の発生原因はいくつかありますが、【低圧用機器を高圧部分に使用したために発生した負傷事故及び波及事故】でのアーク放電事故発生原因は
- 高圧配線部3300Vに低圧用クランプメータ定格使用電圧AC600V以下耐電圧2000V
を使用したため、アーク放電が発生し、配線部が焼損した。- また、遮断器動作用のバッテリーが消耗していたことと、アーク放電が遮断器動作用回路に進入したため主遮断器動作用の電源が確保できずに波及事故となった。
とのことでした。広くいうと、機器の誤動作、不適切な安全手順、工具落下等によってアーク放電は起きてしまいます。非常に多量のエネルギーが放出されるので、十分に注意しなければなりません。
このケースの事故の被害は以下のようになっていました。
当該事業場は33kV受電の特高需要家である。
・事故当日の午前8時頃に力率調整用の高圧コンデンサを投入したところ、内1台のR相
が0A表示であった。
・一旦はこのコンデンサを切り離したが、午前9時前に再度投入を行った。
・その後当該コンデンサの点検のため、当日の担当者の指示により他の2名が点検作業に
当たることになった。その際、担当者は低圧用クランプメータを用いて当該コンデンサ
の電流を測定するよう指示を行った。
・2名はキュービクル内の高圧リアクトルR相を測定するため、低圧用クランプメータを
高圧配線部に使用したところアーク放電が発生し、三相短絡事故となった。
・その際に発生した当該リアクトルの配線焼損により作業中の2名、及び救出作業を行っ
た1名が負傷した。
・また、主遮断器が作動しなかったため波及事故となった。
アーク放電はときに衣服を燃やし、皮膚を焼くことがあります。最悪命に係わる事故に発展するため非常に危険性が高いです。このようなアーク放電の事故事例はアーク放電の理論が応用され始めて多く記録されています。便利な反面アーク放電事故防止は必ず年頭においておかないといけません。
アーク放電防止策
アーク放電の防止策は現場によって変わってきますが、アーク放電による事故を防ぐにはやはり、アーク放電の原理と事故が発生する要因、消弧の方法を抑えておくことが重要なのではないでしょうか。現場によってはアーク放電の危険性を認知させるシールが貼ってあることがあります。それに、アーク放電の対策セミナーも開催されています。知識を蓄えていざというときに知識を活かして対策することが重要でしょう。
まとめ
以上のようにアーク放電の概要や原理、消弧、事故事例などについて紹介してきましたが、アーク放電の原理は技術開発にも使用される産業を支えるものですが、その一方で危険性が伴います。ですので、使用には注意が欠かせないでしょう。