電気工事業者に電材が届くまでには「電材製造業者→電材卸業者→電気工事業者」という流れがあります。電材製造業者、電材卸業者の産業上の課題などについてを紹介します。
電材・電材商社業界の流通(サプライチェーン)
電材が消費者に行き届くまで
電材が消費者(電気工事業者、個人)に行き届くまでには色々な業者や関係者が関係してきます。これを図示したものが以下のようになります。
大まかな電材流通の流れはこのようになるのですが、製造業者、卸業者、小売り業者それぞれに役割があります。
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製造業者の役割
- 電材メーカーとも呼ばれる。電気資材の製造元
- 原材料を調達・加工を通し製品を生産する役割を持つ。生産された製品を直接需要家である消費者に提供するか、卸売業者を選択し製品を流通させるかという「流通チャネル(販売経路)」を選択できるのです。
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卸売業者の役割
- 電材商社、電材屋とも呼ばれることがあります。
- 製造業者から仕入れた製品を小売業者、もしくは消費者に流通させます。製造業者と小売業者の間に入り製品流通を仲介する業者になります。
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小売り業者
- 小売り業者は工務店などをさします。
- 消費者との接点を持ちます。製品のアソートメント(並び化え)や在庫整理などを行います。
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消費者
- 電材流通の場合、電気工事業者等の法人や個人などが該当します。
- 小売業者から購入した製品を使用し、サービスとしてユーザーに提供する。建設資材を元に工事を行う
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ユーザー
- サービスの受け手のことを指します。
- 電気工事であれば、工事を受けるものの事を指し、配線工事等で直接的に利益を受ける一般住宅の所有者、貸借者を指します。
電材業界の産業構造、ビジネスモデル
電材・電材卸業界のお金の流れを表した産業構造、ビジネスモデルは以下のようになります。
製品製造からエンドユーザーに流通するまでの過程の中で間に入る業者数が多いほどユーザーの購入価格は高くなっています。とはいっても安く電材を仕入れたい場合、数ある電材メーカーの製品から何か一つを選択し購入することは難しいです。
そうしたときに電材卸業者、電材小売り業者は力になるのです。いかにしてユーザーが最適な製品を手にすることができるかは情報量と情報の質にかかっているともいえるでしょう。
電材業界の市場動向
電材業界の市場規模
全日本電設資材卸業組合連合会によると、全会員企業733社の年商は2.7兆円となっています。ですので、電材業界の市場規模はおおよそ2.7兆円と算出できるでしょう。建設資材の中では比較的大きな市場であるといえます。
近年の建設業界全体でみると、東京オリンピックに向けて工事件数は増加していっています。それに伴い建設資材に対する需要は伸びてきています。その中で電気工事は当然行われますから電材需要も高まっています。
電材業界の市場状況、コスト構造、収益性
電材メーカー上場50社のIR、決算短信資料を基に電材業界のコスト構造を売上原価率、販管費率、収益性については営業利益率を算出したものが以下になります。上場50社の平均値をとったものになります。
総売上高 | 原価率平均 | 販管費率平均 | 営業利益率 |
---|---|---|---|
2.1兆 | 78.92% | 22.92% | 6.09% |
電材メーカーにとってのコスト構造はこれをみると、原価率が経営を圧迫することが読み取れます。コストカットが収益性を高めることになりそうですが、一概にコストカットが業績を上げるために必要な施策とは言えません。
というのも販管費には人件費等も含まれるためリストラが横行する可能性もあります。リストラが続けば当然技術力が下がってしまい、業界内における優位性を構築できない可能性があるからです。収益性改善には業務効率化等によって無駄に発生しているコストをカットすることが重要だともいえます。この点については後の電材業界の課題と解決策についてで説明します。
電材業界ランキング
電材業界においてどんな企業がいて、どのくらいの収益を得ているのかについてをメーカー、卸双方の売上ランキングを作成しました。各企業の数値に関しては上場企業決算短信や、各社HPで記載されている各指標から算出し、作成したものになります。
電材メーカーランキング
メーカー名 | 売上高 | 資本金 | 従業員数 |
---|---|---|---|
住友電工 | 2.1兆 | 997億 | 5,100人(単独) |
古河電気工業 | 9673億 | 693億 | 3,657名 |
フジクラ | 7,400億 | 530億 | 58,422名(連結) |
東芝ライテック | 1,283億 | 100億 | 2,764名 |
日東興業 | 1080億 | 65億 | 1,600名 |
河村電器産業 | 536億 | 18億 | 1,900名 |
ネグロス電工 | 363億 | 2億 | 1,250名 |
未来工業 | 351億 | 70億 | 810名 |
カナフレックス | 180億 | 6億 | 350名 |
マスプロ電工 | 125億 | 10億 | 480名 |
日動電工 | 76億 | 1億 | 120名 |
マサル工業 | 40億 | 9,500 | 170名 |
この中でも特に「古河電気工業」「住友電工」「フジクラ」の三社は電材御三家と呼ばれる電材メーカーの巨大企業なのです。いずれの企業も操業年度が古く、技術力も高い企業になっています。その分年収も高くなっている傾向にあります。
電材メーカーはそれぞれの企業によって主要商材が異なります。どの製品市場でポジションを確立できるかが業績を向上させられるカギともいえるでしょう。例えば古河電気工業の主要製品は光ファイバーが有名でした。しかし、光ファイバー製造業者は過多化していきコモディティ化していきました。そんな中今での古河電気工業の主力製品は次世代の自動運転支援に不可欠といわれる「周辺監視レーダー」なのです。
つまり、時代とともに主力製品も変わっていきます、
電材卸ランキング
会社名 | 資本金 | 売上高 | 従業員数 |
---|---|---|---|
因幡電機産業 | 133億 | 2,400億 | 2,200名 |
ミツワ電機 | 3億3000万 | 1,068億 | 916名 |
東芝電材マーケティング | 2億 | 763億 | 1,000名 |
新明電材 | 9,000万 | 680億 | 870名 |
たけでん | 3億5,000万 | 612億 | 730名 |
藤井産業 | 18億8,365万 | 594億 | 615名 |
岡田電気産業 | 5,000万 | 526億 | 840名 |
杉本電機産業 | 9億1950万 | 318億 | 430名 |
小島電気工業 | 9,500万 | 315億 | 424名 |
田中商事 | 10億7320万 | 290億 | 383名 |
カンサイ | 9,600万 | 283億 | 210名 |
昭和電機産業 | 7億5,000万 | 244億 | 330名 |
ヤマト電機 | 3億2,000万 | 207億 | 300名 |
日本電設資材 | 9,900万 | 198億 | 230名 |
日本電商 | 2億6,300万 | 192億 | 300名 |
電材卸業界の特性としては地方、地域に根差した企業が多く、大きく全国展開している資本力の強い企業か地方特化の企業に分類できます、このように電材卸業界は分類できるのですが、このような経営方針になるのは物流機能の利便性等が要因になりえます。
製造業者から仕入れた製品を素早く工事業者や小売店に届けるためにこのような構造になるのです。ですので、企業規模の大きい企業ほど商圏の範囲が広いのです。
また、製造業者の流通選択チャネルにもよりますが、需要先はゼネコン、ハウスメーカー、各種施設、通信会社、工務店などと非常に幅広いので、卸業者の存在は必要不可欠なのです。そうした意味では、職業としての安定性はあるともいえるでしょう。
電材業界の課題と解決策
電材業界の市場規模や企業ランキング等についてを紹介してきましたが、次に電材業界を取り巻く課題、そしてその解決策についてを業界内従事者等の声や富士通マーケティングパートナーズの資料を参考に紹介します。
電材業界の課題と解決策(案)
電材業界における課題は他の建設資材メーカーにも共通しているものかもしれませんが、大まかな課題としては☝の図の①~⑥に集約されました。
①業務プロセスの効率化・標準化
何かとペーパーレスが叫ばれる現代社会ですが、紙による業務が多くあるようです。確かに紙による業務だと管理の利便性がさがり、結果的に管理コストが上がってしまうことがあります。これを業務管理システムやクラウドサービスで管理できると管理コストを下げることにもつながりえます。
②受発注業務の効率化
製造業者、卸業者にとって「在庫管理」は重要な業務です。在庫引当の精度を向上させることができれば得意先、契約先との取引をより一層効率化させうることができるでしょう。さらに、電材という性質上、品種が多くなりがちですが、多品種に対応できるような受注体制を構築することもまた重要視されています。
③顧客との情報連携
現在では電子商取引が一般化し、請求書などは電子化されるようになりました。契約先との連携を紙ではなく、電子データで交換できればより一層業務コスト、管理コストを引き下げることができるようになるでしょう。また、よりスピーディーな対応をするための業務体制、工事案件ごとの管理も重要とされています。
④原価管理のシステム・クラウド管理
先ほども見たように電材業界のネックは原価費にあるといえます。原価を抑えることは難しくても投下原価費を最大限活用することが重要です。余計な在庫を発生させないようにすることが収益を上げるには重要ともいえます。その方法として見込み販売量から逆算して投下原価費を調整できるようなシステムやクラウドがあればより一層原価管理は利便なものとなります。AI技術を駆使した投下可能原価費計算も学習データが蓄積すれば可能になります。
⑤在庫管理の効率化
これは②、④とも関連するのですが、在庫管理は製造業者、卸業者、小売業者の三方にとって重要な業務です。在庫管理は非常に難しい領域ですが、コミュニケーションにより解決できる場合もあります。例えば、小売店が在庫状況をリアルタイムで卸に報告できれば最適な在庫量を調達できる可能性があります。この在庫管理の即時性を高めることがより収益に関係してくる可能性があります。
⑥スキルの継承
スキルの継承問題については建設業界全体で課題とされていることです。スキルの継承問題は主に製造業者の課題ですが、技術をいかに若手に継承していくかということに関しては建設業人材不足の今早々には解決できない問題です。ベテラン従業員にスキルを属人化させない仕組みを形成するには、スキルシートや教育制度の確立などで対処できることがあります。
まとめ
以上のように電材業界の産業構造やビジネスモデル、市場規模、課題と解決策などについてを紹介してきましたが、電材業界は尽きない需要家からの需要があります。ですので、職としての安定性は比較的あるといえるような業界です。