水力発電において水車は必要不可欠な要素ですが、その水車は水の持つ大きなエネルギーをランナや弁で受け止めることになります。そのため、キャビテーションという現象が水車を欠損を与える可能性があるのです。この記事では、そんなキャビテーションの原理と対策の方法についてを紹介します。

なお、水車のキャビテーションの原理と対策については電験三種の電力科目でも頻出となっています。

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[水車]キャビテーションとは?発生原理

[水車]キャビテーションの原理

水車においては、流水速度が速い部分に関しては圧力が低くなり、流水速度が遅い部分は圧力が高くなります。圧力が低い場所での飽和蒸気圧以下の部分ができると、その部分に気泡もしくは真空部分が発生します。これが流水と共に流れるのです。そして、圧力の高い部分にぶつかると、瞬間的に気泡がつぶれて大きな衝撃が発生します。この現象のことをキャビテーションと呼びます。もう少し詳しくキャビテーションの原理を見ていきます。

キャビテーションの原理はポンプ技術者であればだれもが知っておく必要があるほどに重要な現象です。キャビテーションの原理を知ると、キャビテーション=沸騰という見ることもできますが、キャビテーションは正確には学術用語として沸騰とは区別されています。

ある温度の水が空気と接するとき、圧力が、その温度で決まる飽和蒸気圧以上であるならば、水は気化します。空気中の水蒸気の分圧が飽和蒸気圧に達すると、蒸発はとまります。この時湿度100%の状態となります。水の圧力がその温度で決まる飽和蒸気圧以上のばあい、空気と接する面がないと水の蒸発は起きません。水の圧力が低下すると、低い温度で水は沸騰します。3000~4000Paまで圧力が下がると、水は常温で沸騰します。この時にキャビテーションが発生します。このことがキャビテーションの原理となるのです。キャビテーションの原理は、通常の沸騰とは違い、ある温度以下で水圧が低下して飽和蒸気圧に達し、水が急激に気化する現象なのです。

水車におけるキャビテーションの発生原理はこのようになりますが、実際の水車のキャビテーションにおいては、水車のインペラ(羽根車)背面に流体の流れが表面から剥離し、局所的に真空部が発生し、消滅したりして衝撃波を発生させます。ポンプの場合、ポンプ内部で揚液が飽和状態になったとして、内部から気泡が発生し、ポンプが空回りすることになります。気泡が急激に凝縮して消滅するときに激しい振動と異音を発生させます。水車以外にも、キャビテーションはポンプや船舶のスクリューでも発生することがあります。

つまるところ、キャビテーションの発生原理・条件は⓵十分なキャビテーション核②十分な低圧③十分な低圧継続時間のような条件下で発生します。

キャビテーションの発生原理・キャビテーション係数

もう少し細かくみると、キャビテーションにはキャビテーション係数というものがあり、キャビテーション係数はσで表されます。有効落差をH[m]、大気圧をHa[m]、水の蒸気圧をHv[m]、吸出し高さをHs[m]とすると、キャビテーション係数σは以下のように式によってあらわすことができます。

    $$\sigma=\frac{\left(H_a-H_v-H_s\right)}{H}....(1)$$

つまり、キャビテーション係数σが小さければ小さいほどにキャビテーションが起こりやすくなるのです。

[水車]キャビテーションによる被害

キャビテーションの発生原理についてみてきたところで、実際にキャビテーションが発生すると、どのような被害が発生するのかを見ていきます。

キャビテーションが発生してしまうと、振動と騒音が発生します。効率や出力の低下をきたすことになります。また、流水に接するランナ表面などに☝の図のような壊食と呼ばれるあばた状のくぼみや欠損を生じさせます。

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[水車]キャビテーションの対策

水車にキャビテーションが発生してしまうと、水車に壊食を発生させ、欠損させてしまう恐れがあります。このような事態を防ぐためにもキャビテーションの対策を取っておく必要があるのです。このキャビテーションの対策はキャビテーションの発生原理を潰すことで基本的に対処することができます。具体的なキャビテーションの対策方法をいくつか紹介します。

対策その①比速度を過度に大きく設定しない

水車には比速度という水車の特性を知る指標があります。水車の比速度は回転速度に関する指標です。この比速度は水車の種類によって下限値と上限値が決まっていますが、過度に大きな比速度を設定してしまうと、水車がキャビテーションを発生する可能性があるのです。適切な範囲内での比速度を設定する必要があるといえます。

対策その②吸出管の吸い出しの高さを高く設定しすぎない

吸出菅というのはドラフトチューブとも呼ばれ、ランナ出口から放水面までを結びつける接続管のことを指します。この吸出菅を使用することで末広構造によって、断面を徐々に大きくすることで水のエネルギーを効率よく吸収することができるのです。この吸出菅の高さを施工段階で高く設定しすぎてしまうと、(1)式で見たキャビテーション係数が小さくなり、キャビテーションが発生しやすくなってしまいます。ですので、吸出管は低く設定することが重要となるのです。

吸出菅の流水の吸出しの高さを低く設定することの理由としては、先ほどの式(1)で見たような吸出し高さHs[m]が小さくなるので、式(1)の分子が大きくなるので、キャビテーション係数が大きくなりキャビテーションは発生しにくくなるのです。

対策その③吸出菅の上部に適量の空気を注入し、真空部分の発生を制御する。

大気圧Ha[m]以上の圧をポンプで注入すると、式(1)の分子は大きくなります。なので、キャビテーション係数σが大きくなるのでキャビテーションは発生しにくくなるのです。バイパス回路としてブースターポンプを設置することがしばしばよく取られる対策となっています。

対策その④過度の軽負荷運転や重負荷運転を避ける

この対策方法はシンプルなもので、水車に水を当てる位置に偏りがないようにするということです。局所的に高圧のエアーノズル等で水車の羽根にかけてしまうと噴射圧力に耐久できずに破損してしまいますが、偏りがないように噴射することで防ぐことが可能になります。軽負荷運転の場合はその逆です。

対策その⑤ランナベーンの流水が触れる表面の仕上げを平滑にする

キャビテーションの支配要因の一つに形状と表面の粗さがあります。ランナベーンの表面に張り付いた気泡もキャビテーションに影響を与える要素なのです。それゆえに、ランナベーンをなるべく平滑にすることによって粗さをなくします。キャビテーションの支配要因に対する対策といえます。

対策その⑥キャビテーションが発生しやすい箇所に耐食性の高い材質を用いる

いわゆるキャビテーション・コロージョンと呼ばれる現象を防ぐために、なるべく高品質な材質を使います。耐食性が高い材質は、ステライトやアルミニウム、モネルなど様々あります。

まとめ

以上のように、水力発電の水車の運転の障害となりうるキャビテーションという現象についてを紹介してきました。キャビテーションの発生原理と被害、対策方法を抑えておくことは、電験三種試験においても重要です。