エネルギー管理士とは?
1979年にエネルギー使用の合理化等に関する法律(通称省エネ法)が制定施行され、これまでに環境の変化に応じて改正されてきました。省エネ法を根拠とし、誕生したのがエネルギー管理士という国家資格です。エネルギー管理士は省エネ推進のために、ビルや工場等で省エネ計画の作成や実行、評価を統括して行う省エネ推進者としての役割を果たしています。
そのエネルギー管理士になるためには、2つのルートがあります。一つは国家試験に合格すること、一つは認定研修を終えて合格することの二つです。今回はエネルギー管理士の国家試験についてを紹介します。試験の概要は以下の用になります。
項目 概要
受験資格 なし
受験料 17,000円
申込期間 5月上旬~6月上旬(年1開催)
試験時期 8月
試験日程 1限目9:00~10:20(80分)
2限目10:50~12:40(110分)
3限目14:00~15:50(110分)
4限目16:20~17:40(80分)
試験形式 マークシート筆記試験
合格基準 課目60%
課目合格制 あり
試験会場 北海道、宮城県、東京都、愛知県、富山県、大阪府、広島県、香川県、福岡県及び沖縄県
試験実施母体 省エネルギーセンター
1 エネルギー総合管理及び法規(エネルギーの使用の合理化等に関する法律及び命令、エネルギー総合管理)
2 熱と流体の流れの基礎(熱力学の基礎、流体工学の基礎、伝熱工学の基礎)
3 燃料と燃焼(燃料及び燃焼管理、燃焼計算)
4 熱利用設備及びその管理(計測及び制御、熱利用設備)
2 電気の基礎(電気及び電子理論、自動制御及び情報処理、電気計測)
3 電気設備及び機器(工場配電、電気機器)
4 電力応用(電動力応用、電気加熱、電気化学、照明、空気調和)
エネルギー管理士という資格はビルメンテナンス業界では取得すると昇級・転職に有利・資格手当支給等のメリットがあるとされる国家資格です。それゆえに人気がある資格ではありますが、いかんせん合格率がここ5年で30%を切る、試験内容が難易度が高いことから難関資格との位置づけがされることがあります。twitter等でもエネルギー管理士電気分野の資格の難易度を電験3種と電験2種の間の2.5~7種とする位置づけであるとされるようなことがあるようです。
今回の記事ではそんなエネルギー管理士試験の勉強方法についてを建職バンク登録者の合格者の声や書籍レビューを参考に紹介します。まずは、平成22年度まではエネルギー管理士の選択必修専門課目として電気分野より合格率の高かった熱分野についての勉強方法を紹介します。
熱分野の勉強法①学習計画、勉強時間
資格の勉強をする際に何日、何カ月、何年と期間の定めをしておくことはあるでしょう。どのくらいで資格を取得したいか、どのくらいの時間をかければ合格できそうかということを固めておく必要性はあるでしょう。ビジネス関係で人気のある資格、例えば簿記検定3級やファイナンシャルプランナー等の資格は数カ月~1年で合格できることを前提に期間を設定します。
しかし、ビルメンテナンス、設備管理における難関資格であるエネルギー管理士の合格までの期間は数年と設定することがよくあります。電験資格においても2年から3年スパンで勉強計画を設定することがあります。
というのも課目合格制があるので、1課目合格すれば来年度、もしくは再来年度試験でその課目が免除される関係上、期間を長めに設定することで仕事と両立して勉強時間を確保できるからです。とはいっても受験生のバックグラウンド等によってこの期間は変わってきまが、おおよそ1年から4年単位で勉強計画を練るのが良いでしょう。
なお、以下のようなアドバンテージがあると勉強時間は削減できるでしょう。
- ボイラー技士保有者
- 電験3種以上保有者
- 大学にて熱力学、流体工学等の工学を修める
- 大学数学、大学物理を修める
- 高校数学が好き、得意、高校物理が好き、得意
- 仕事で空調設備管理経験あり。
- 月刊省省エネルギーを定期購読
これらのようなアドバンテージがない場合は、高校物理や高校数学を復習大学⇒数学(特に微積分)を修め⇒熱力学⇒流体工学の基礎知識を勉強⇒エネルギー管理士のテキストを読み込む⇒過去問を読むというような順序で合格された方もいらっしゃるようです。その方の勉強時間は4年間で一日1時間を投資していたようです。
熱分野の勉強方法②科目別攻略法
壱:エネルギー総合管理及び法規
熱分野の試験科目は☝で紹介したようになっていますが、1課目目に必須基礎課目で【エネルギー総合管理及び法規(エネルギーの使用の合理化等に関する法律及び命令、エネルギー総合管理)】を解かなければなりません。
エネルギー総合管理及び法規の問題では
- 問題1:エネルギーの使用の合理化等に関する法律及び法令(50)
- 問題2:エネルギーの情勢、制作、エネルギー概論(50)
- 問題3:エネルギー管理技術の基礎(100)
という構成と配点で出題されています。
この中でも問題2は題意の通り過去問からの類推が難しいです。平成27年度試験では燃料電池の仕組みを問うような問題が出題されています。問題2の対策は雑誌やweb等でエネルギー動向を抑えておく必要があるでしょう。過去数年のいくつかの問題では省エネルギーセンター出版の「月刊省エネルギー」にて取り上げられたものが出題されたこともあります。
この問題構成のうち、問題1と3は特に得点源となりやすい問題となっています。
なぜなら、計算問題が出題されることもありますが、例年過去問と似たような問題が出題されているので過去問の問題1は暗記レベルまで落とし込めると本試験の問題1は得点源となりうるでしょう。さらに問題形式が穴埋めなため法律・法令の前後の文章を記憶しておくことで得点が容易になるでしょう。
問題3に関しては毎年のように『工場等判断基準』という文言が出てきます。この工場等判断基準というのは省エネルギーセンターが公式HPで掲載しています(こちら)。工場等判断基準に関連する事項を問うような問題が毎年のように出題されます。
だいたい小問17,18問中半分近くは燃料使用量等を算出するような計算問題で構成されています。問題2をどのようにして勉強方法としてはテキストにあるような公式を覚えることが対策の近道でしょう。
参考書のおすすめについては⇒「エネルギー管理士おすすめ参考書」をご参考ください
弐:熱と流体の流れの基礎
熱分野の熱と流体の流れの基礎は以下のような問題で構成されています。
- 問題4,5:熱力学の基礎(100点)
- 問題6:流体工学の基礎(50点)
- 問題7:伝熱工学の基礎(50点)
の3問構成と配点になっています。こちらの問題はいづれも大学で履修できるような工学系の学問分野からの出題です。ここの問題の専門性が高いために鬼門とも呼ばれているようです。基礎的なところでは高校物理学の知識と数学の知識があればこれらの学問分野は理解し、テキストで対策できるでしょう。
なかでも問題5は易しい問題が出題されることもありますが、熱力学が苦手という方もいらっしゃるようですが、過去問を解き倒すうちに解法パターンを掴めば攻略が可能です。問題4は一方毎年難易度の高い問題が出題される傾向にあります。
問題4,5の熱力学の基礎は「熱力学の法則、理想気体、蒸気サイクル(ランキンサイクル)」辺りが範囲となっています。
問題6の流体工学の基礎は「流れの状態や方程式、ベルヌーイの定理、ハーゲンボアズイユの法則、粘性力学」辺りが範囲になってきます。
問題7の伝熱工学の基礎は「伝導、放射、熱交換」のような現象についてが出題されます。
これら問題4~6のうち最も勉強時間を割いた方がよいのは熱力学の基礎でしょう。それは配点の大きさからです。これらのうちで得意不得意がはっきりしてくる問題となっています。
対策としては、エネルギー管理士全部問題が全部詰まった不動先生の『徹底研究』参考書と合わせて省エネルギーセンターが出版している『エネルギー管理士試験講座 熱分野〈〇〉-』をセットで併用することが肝要でしょう。苦手分野に関してはその問題分野を深ぼって専門書籍を購入するのもありかもしれません。
また、対策としてこの問題は計算問題であり、熱計算に慣れておく必要性があるでしょう。そうした意味で『やさしい熱計算演習』という書籍で力をつけるのもありでしょう。
参:燃料と燃焼
- 問題8,9:燃料及び燃焼管理(100)
- 問題10:燃焼計算(100)
第3問の燃料と燃焼の問題と配点はこのようになっています。
問題8,9の燃料及び燃焼管理の問題は比較的暗記で解けるような問題が多く出題されます。特に気体燃料、液体燃料、固体燃料、セタン価・オクタン価、燃料の特性や試験方法に関する問題が範囲となります。
特に頻出なのは重油に関する問題で、重油の種類に関する問題や重油の使い方、温度に関する問題が出題されています。他にもテキスト、過去問を通して暗記で対応できる問題の演習を通して対策できるでしょう。比較的得点源になりやすい問題ともいえます。
問題10で出題される燃焼計算はパターンが決まっています。とある成分量の燃料を燃やす時に燃焼計算を抑えることで高得点も見込めるでしょう。問題10で毎年出題されるのはバーナーの種類や特徴に関する問題です。
燃料と燃焼の問題は他の問題と比較して得点源となりやすい問題が多く出題されているのです。
肆:熱利用設備及びその管理
問題4は熱利用設備及びその管理となっており、問題構成と配点は次のようになっています。
- 必須問題11,12:計測及び制御(100)
- 必須問題13,14:ボイラ、蒸気輸送・貯蔵装置、蒸気原動機・内燃機関・ガスタービン(100)
- 選択問題2題選択(80)
- 問題15:熱交換器・熱回収装置
- 問題16:冷凍・空調調和設備
- 問題17:工業炉、熱設備材料
- 問題18:蒸留・蒸発・濃縮装置、乾燥装置、乾留・ガス化装置
課目2の次に難易度が高いとされるのが課目4です。
必須問題の問題11,12は計測器の種類、PID制御、ラプラス変換が主に出題される範囲となっています。実際に熱利用設備に関わるにおいて必要な知識となっています。
必須問題の問題13,14はボイラーやタービンに関する問題が出題されます。設備の問題は、各設備の種類(ボイラーなら丸ボイラー、水管ボイラー、煙管ボイラーなど)が出題され、さらに、コージェネ、コンバインドサイクル、燃焼率の向上、環境対策といったエネルギー管理士の仕事で必要となる知識に関する問題が出題されます。
エネルギー管理士受験者の中にはビルメン四点セットの資格を保持している人も多くいますし、人によっては対策が容易な課目かもしれません。必須問題13,14はボイラー技士の資格試験問題で出題されるような問題が多く出題されます。
選択問題に関しては配点が80点と高いわけではなく選択問題である性質上、難易度が高いということはないのですが、設備管理の仕事をしているのならば業務と関連性のある問題を選択するのがよいでしょう。この課目4に関しては個別テーマでの参考書で対策するのもありでしょう。☞『エネルギー管理士実戦問題熱利用設備およびその管理』
まとめ
以上のようにエネルギー管理士の熱分野の試験科目、問題の配点、勉強方法、試験対策についてを合格者の声等を参考に紹介してきました。エネルギー管理士の試験は非常に難易度の高い試験です。合格率も高くはないですし、問題内容もやさしいものではありません。しかし、エネルギー管理士の熱分野の問題には暗記やパターン理解をすることで解答できる問題が多く出題されています。
ですので、得点源を落とさず、差がついてしまう課目2の勉強に時間をかけるのが得策でしょう。そうはいってもエネルギー管理士は課目合格制を採用しているので、他の課目がダメでも来年度チャレンジできます。この試験は非常に根気強さが必要な資格でしょう。